本研究では、人が有していない人工肢を、人の本来の四肢と協調して操ることに挑む。人が 2 本の腕・脚に加え、第 3 の腕や尻尾など、新たな人工肢を自由に使えれば、人の能力の大幅な拡大が期待できる。この課題の達成に向けて、申請者らが近年発見した、遠隔操作における身体感覚転移の錯覚を用いたアプローチを取る。本年度は、1) 人工肢のオーギュメンテッドリアリティ(AR)による実装、2) 人工肢の生理情報による制御、および3) 人工物への身体感覚転移(BOT)の検証、の3項目を実施した。当初計画では最初に簡易ロボットを作成し、これを用いて実験を行う予定であったが、ロボットの形状や自由度、人への装着部位などの選択肢が多く、ロボットを実装しつつ最適なものを試すことが困難であることがわかったため、まずARによる検証を行うこととした。そのため、ヘッドマウントディスプレイ上に人工肢をリアルタイムで表示するシステムを作成した。この際、ロボットとの比較も行えるよう、ロボットと同じインタフェースで制御可能なものとしている。また2) 人工肢の生理情報による制御として、AR人工肢を呼吸ピックアップ、筋電計測による信号処理を通じて制御する仕組みを開発した。これと並行して、3) 人工物への身体感覚転移(BOT)の検証として、どのような人工物に対してBOTが生じやすいか、物体形状やCGによる影響があるかの検証を行った。これらの結果から、BOTは人の形状をした実在する物体に対して最も強く生じるものの、CGや人以外の形状のものに対しても生じうること、特に対象が制御可能なときに生じやすいことがわかった。また、CGを使う場合でも、現実世界の物体とのインタラクション(干渉)が生じることで、BOTの強度が上昇する可能性がある。そのため、現在はARシステムによる人工肢を用いて、実際の物体の動作に干渉した際の影響を計測する実験を行っている。
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