本研究では、人が本来有していない人工肢を操ることに挑んでいる。本年度は、昨年度開発したARシステムによる人工肢を用いて、(1)人工肢により現実世界の物体に干渉する効果と、(2)使用頻度の低い筋肉による操作の効果について、人工肢への身体感覚転移(BOT)の効果の観点から検証した。まず(1)の現実世界物体への干渉については、人工肢を腹部運動により操作する際に、ARによる人工肢の動きと同期して、ロボットボールを動かすことで実現し、このボールが動く場合・動かない場合とで人工肢をどの程度自らの一部と感じるかを評価した。加えて、人工肢の操作性を恣意的に操作することで、操作性と併せた効果を検証した。その結果,拡張肢の操作性が良く、また拡張肢によってボールが操作できる場合に、拡張肢を自分の一部と感じる度合いが高まることが確かめられた。ただし、この際の主観評価は全般的に低かった。この原因として操作動作を拡張肢の操作よりも腹部を動かしている感覚が強いためではないかと考え、通常ほとんど使用されない筋耳介筋を用いた操作を試みた。 ただし、耳介筋は通常使われない筋肉であるため、恣意的に動かすことが可能な人は多くない。そのため、まず耳介筋を動かすトレーニング方法を開発し、被験者にはこのトレーニングを受けてもらった後に、人工肢の操作と評価を実施した。結果として、被験者のうち耳介筋を使用できなかった9名中6名が訓練を通じて、実験に必要な操作を行うことができた。ただし、耳介筋を通じた操作においても、BOTに関しては良好な結果を得ることはできなかった。これは操作にのみ注意が集中したためと考えられるため、今後、長期的な操作訓練などを検討していく。
|