研究課題/領域番号 |
26540125
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
阿久津 達也 京都大学, 化学研究所, 教授 (90261859)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 複雑ネットワーク / ロバストネス / 構造的可制御性 / スケールフリーネットワーク / 最小支配集合 / ブーリアンネットワーク |
研究実績の概要 |
支配集合に基づく構造的に頑健な制御については、本年度は当初計画から少し別の方向への展開を図った。具体的には、以前の研究において提案した、すべての最小支配集合に現れる重要頂点(critical頂点)に関して研究を深化させた。その一つとして、二部グラフ構造を持つネットワークに対する重要頂点の計算法を開発し、その理論解析を行い、それを実際の非コードRNAとタンパク質のなす相互作用ネットワークの解析に適用した。その結果、ネットワーク構造が大きく二つに分断されることを見出すとともに、重要頂点が疾患と関連するものが多いことも見出した。もう一つの成果として、重要頂点の計算手法の改良を行った。以前に提案した手法では整数計画法を直接適用していたが、今回、前処理を行うことにより大幅な高速化に成功した。そのため、より大規模なネットワークに対して重要頂点の計算を行うことが可能となった。
ブーリアンネットワークについては、昨年度より開拓してきた確率ブーリアンネットワークに対する例からのネットワーク構造の正確な推定という課題に関して、AND/OR関数、かつ、1個の頂点に2個のブール関数が割り当てられている場合を主対象に研究を行い、推定可能なクラスと不可能なクラスを特徴づけることに成功した。さらに、推定可能なクラスについては推定に必要なデータ数を理論的に導くとともに計算機によるシミュレーション実験を行い、理論的結果とシミュレーション結果がよく合致することを確認した。また、既存研究において広く利用されている確率ブーリアンネットワークの形式をサーベイ・分類し、それらのクラスにおいてネットワーク構造が例だけから正確に推定できるかどうかについて理論的に解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
支配集合に基づく構造的に頑健な制御については、当初予定とは少しずれたが、支配集合の重要頂点の計算法、拡張、生体内相互作用ネットワーク解析への適用に関して有用な成果を得ることができた。来年度は当初予定の構造的に頑健な制御に重点的に取り組む予定である。 ブーリアンネットワークについては、昨年度より開拓してきた確率ブーリアンネットワークの構造推定について最初の成果をJournal論文としてまとめることができた(in press)。ネットワーク推定に関する新たな方向性を開拓した研究であり、良い成果が得られたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
支配集合に基づく構造的に頑健な制御については、これまでに開発してきた被覆率を一律にあげる方式ではなく、故障が生じやすい箇所を重点的に被覆する制御方式を考え、その理論解析、シミュレーション解析を行う。また、支配集合の計算はNP困難な問題であるが、これまでの経験からスケールフリー性を持つネットワークに対しては、単純な規則の反復適用により多くの場合について高速に解けることがわかってきた。そこで、できるだけ多くの場合に対応できるよう、これまの計算方式の改良を図る。
ブーリアンネットワークについては、本研究において開拓してきた確率ブーリアンネットワークに対する例からのネットワーク構造の正確な推定という研究を深化させる。特に、遺伝子ネットワーク推定のみならず神経回路網推定にも対応することを目的として、しきい値関数からなる確率ブーリアンネットワークについて、例から推定可能なクラスと不可能なクラスを明らかにする。
代謝ネットワークの頑健な制御に関しては、これまで研究してきたブーリアンモデルと、広く利用されている基準モードに基づくモデルの融合について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度も理論研究が中心だったこと、および、シミュレーション研究が主として共同研究者に行われたことにより、それほど多くの予算が必要でなく、かつ、最終年度において研究のとりまとめのためより多くの予算が必要となることが予想されたため、その分を繰り越した。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度は研究とりまとめのために大規模シミュレーションが必要であることが予想され、備品購入や謝金支出などにこれまでに繰り越した予算を利用する見込みである。
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