研究課題/領域番号 |
26540131
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
久野 義徳 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (10252595)
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研究分担者 |
小林 貴訓 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (20466692)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 画像、文章、音声認識等 / 知能ロボティックス / ユーザインタフェース / 認知症 |
研究実績の概要 |
認知症高齢者が増えている。独居の認知症高齢者には近親者との親密なコミュニケーションが望まれるが、記憶に不安があり同じことを繰り返すことが多い認知症者への対応は近親者にとって負担が大きい。一方、認知症の専門家からは、認知症では記憶障害に加えて感情の喪失が大きな問題なこと、予防のためには本人が主体的・自発的に活動に取り組むのが望まれること、そして、感情の表出を評価する定量的指標が欲しいことが指摘されている。本研究では、近親者の負担を減らしながら、専門家のあげた3つの問題に対応する見守りシステムの開発を目指す。 平成27年度は前年度に開発した認知症者と近親者の間でネットワークを通じて画像通信ができるシステムを実際に認知症者と近親者の間で半年以上使っていただき、その際の映像データを取得した。データが得られたので、今後は、その分析とそれに基づいてシステムの改良を行っていく。また、このシステムにロボットを付加したものも前年度に開発したが、平成27年度は、そのロボットを近親者側から簡単に操作できるように改良した。高齢者の感情状況の評価に向けて、表情認識の研究を進め、標準的に使われているデータセットに対しては、トップレベルの認識結果を得た。さらに、画像から心拍数を認識する方法の検討を進め、75%の場合、毎分5拍以内の誤差で認識できることを示した。この成果をコンピュータビジョン分野のトップコンファレンスのICCV2015で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、平成27年度には前年度に開発したシステムを実際に使用していただきデータを収集・分析することと、それにロボットを付加したシステムを開発する予定であった。 後者については、前年度に前倒しで主要部分は開発したので、今年度は近親者側からの遠隔操作の方法等について改良を行った。ロボットの動作を高齢者の感情状況の認識結果に応じて変えることを計画していたが、感情状況の認識部分については独立した研究にとどまった。 実際の認知症者の画像データは得られ始めたところなので、それを用いた実験は行えなかったが、標準的なデータセットに対しては高い認識率で表情認識を行える方法を開発した。また、心拍数をビデオ映像から求める方法を開発し、高い認識率を得た。この成果はコンピュータビジョン分野のトップコンファレンスのICCV2015に採択された。現時点では、これがそのまま認知症者の感情の評価に使えるかは分からないが、感情状況の変化と心拍数の変化の相関があることは知られているので、有望な技術であると評価できる。ロボットの制御までは進めなかったが、感情状況の認識に関しては、研究が進展したと考えられる。 前者の実験については、介護施設の家族会の際に説明をして実験への協力をお願いした。ただし、開発したシステムは認知症者側は簡単に使えるが、近親者側にはある程度、PCの使用法の知識が必要で、近親者側も高齢者の場合が多く、協力者が1組しか得られなかった。その1組には7月から半年以上継続して使用していただき、実際に認知症者側については使用できることが分かり、今後の分析のためのデータも得ることができた。データの収集という点では1組のデータであり不十分だが、近親者側にも使いやすいシステムにしなければならないことなどを含め、システムに必要な改良点が明らかになった。 以上のことから、おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
実験に参加をお願いしたい認知症者の近親者の方も高齢でPCなどの利用にも親しみがない場合が多いことが分かった。そこで、すでに平成27年度から始めているが、近親者側も簡単に使え、確実に動くようなシステムの開発を行う。これを早期に完成させ、数組の方につかっていただき、会話時の映像データを収集する。定量的な評価はできないが、介護士や家族の方から意見をうかがい、このようなシステムの有望性を検証する。 また、ロボットの利用は有効ではあるが、サーボモータを利用したロボットは認知症者だけで利用していただく場合には、ロボットを触って壊してしまったり、確実な動作を続けることの難しさなどで問題があることが分かった。したがって、施設に設置して介護士の方が見ているところで使う場合にはこれまでに開発したロボットを使用するが、認知症者が個室で使うものについては、サーボモータなどの物理的可動部のないものを開発して利用することを検討する。ただし、やはりディスプレイ上のCG像よりロボットのように物理的存在感があるものの方がよいので、人形の顔にタブレットPCを組み込み、表情の反応は示せるものを開発するのがよいと考えている。 認知症者の多量のデータの取得が困難なため、認知症者の感情状況を認識して、それに応じてロボットの動作を適切に変えることまでの実現は難しいが、研究の目的としては、そのようなシステムの完成には至らなくても、感情状況を認識する要素的な技術が実現できることが重要である。そこで、データが比較的容易に得られる健常者を対象にして、感情状況の変化検出法を検討する。そして、認知症者のデータが得られたら、その方法を適用し、問題点等を検討するという形で研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究開始時に予定した平成27年度の使用額より若干多く使用したが、平成26年度から繰り越した分があるので、次年度使用額が生じた。ロボットやPC類等のハードウェア部分については、現有のものを利用して研究を進めたが、認知症者を対象にした場合、今後の研究の推進方策のところで述べたように、ハードウェア的なロボットは問題があることが分かったので、その製作に予算を使用せず、ソフトウェア開発を中心に研究を行った。そのために次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の推進方策のところで述べたように人形にタブレットPCを組み込んだようなものをロボットにする計画なので、その製作に必要な物品費に予算を使用する。また、最終年度で成果もまとまってきたので、人間の支援と見守り技術に関する特別セッションのあるIECON2016に論文を投稿することを予定しており、その旅費に使用する。。
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