認知症高齢者が増えている。独居の認知症高齢者には近親者との親密なコミュニケーションが望まれるが、記憶に不安があり同じことを繰り返すことが多い認知症者への対応は近親者にとって負担が大きい。一方、認知症の専門家からは、認知症では記憶障害に加えて感情の喪失が大きな問題なこと、予防のためには本人が主体的・自発的に活動に取り組むのが望まれること、そして、感情の表出を評価する定量的指標が欲しいことが指摘されている。そこで、以上の問題に対応するために、コミュニケーションを活発にするためのシステムの開発と、将来的には、それに利用することを考えているが、まずはコミュニケーションのときの感情等の状況を画像から認識する方法について研究を行った。 前者については、近親者とビデオ通話できるシステムで高齢者側にロボットを付加したものを開発した。高齢者に違和感がなく簡単に使えるものをということで、市販のテレビに小型PCを付加したハードウェアで、ボタン一つを押すだけで通話のできるシステムを開発した。ロボットは簡単な自動対話をするとともに、ビデオカメラやドアの開閉センサの情報を利用して、挨拶をしたり、異常と思われるときには近親者にメールで連絡するようになっている。平成28年度には、実際に独居の90歳以上の高齢者宅にシステムを設置し、使用できることを確認した。 後者については、画像からの表情認識法の開発に加え、顔画像から心拍数を計測する方法を提案した。これについては、他でも研究されているが、標準的に比較に使われているデータセットに対してはトップレベルの精度を得ている。平成28年度は、コメディーやホラーなどの映画を見ているときの顔画像データを取り、表情や心拍数の変動を調べる実験を行った。当初から研究期間内で認知症の感情表出指標を得るところまでは目標にしていなかったが、これらの情報を利用した方法の有望性が確認できた。
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