研究課題/領域番号 |
26540145
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
中島 祥好 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 教授 (90127267)
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研究分担者 |
REMIJN GerardB. 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 准教授 (40467098)
高木 英行 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 教授 (50274543)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 音楽知覚 / 音楽的期待 / 和音進行 / 計算モデル / 調性 / 事象関連電位 / 音楽理論 |
研究実績の概要 |
和音進行により生じる緊張や弛緩の知覚は、情動や感情に作用する効果を持つ重要な音楽的要素のひとつである。本研究は、確率モデルを用いた分析を適用することで、情報処理の側面から知覚メカニズムの解明に取り組むことを目的とする。 平成26年度は、緊張感の知覚要因のひとつと考えられている後続和音に対する主観的な整合性に着目した心理実験を行った。具体的には短い連鎖和音刺激を呈示し、その最後の和音の主観的な整合性の高さについて評価尺度による回答を求めた。実験課題を実施し、参加者の内的な情報処理に着目して分析を行った。その結果、整合性の高さは、直前の和音との音程と内的な中心和音との音程に基づいて決まっていることが示唆された。この内的な中心和音は音楽理論における主和音と同義であると考えられることから、短い連鎖和音においても曖昧な調が主観的な整合性に影響を与えていると解釈できる。従来研究で分析の基準とされてきた音楽理論では、短い連鎖和音の調の多くを定義することができないため、この解釈は確率モデルに基づく分析の導入によって、初めて示唆されたものである。 一方、脳波計を用いて同様の和音刺激を聴取した際の事象関連電位を計測したところ、和音間の物理的な音程だけでは説明のできない脳反応を得た。また脳磁図による実験でも、同様の時間空間的パターンを持つ活動が計測された。現在、これらの結果と提案モデルに含まれる変数との関連について調べる実験を進めている。 また、より多角的にモデルの妥当性を検証していくため、進化計算の最新研究の情報を収集し、主観的な整合性のモデリングに適用可能な手法の調査を実施した。次年度以降、調査の結果を踏まえた新たな実験や分析を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
心理実験とデータの分析を中心として実施した。途中経過を国際会議・国内研究会において発表し、音楽知覚研究の新たな可能性を切り開く方法論として評価を得た。しかし、分析に必要な計算資源が想定以上に必要となり、必然的に分析時間を長く要したため、年度内を目指していた国際雑誌論文への投稿には至らなかった。 脳活動計測データの収集に関しては、計画通り予備的な脳波計測を実施し、先行研究に報告されていない脳活動の傾向を得ることができた。また、脳磁図の計測を計画よりも早い段階で実施することができた。その際、脳波計測と同様の結果が示唆されたほか、脳活動源の推定も実施したところ、予想を裏付ける結果が得られた。 このように、概ね計画通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
これまで研究計画時の予想と相違ない結果を得ているが、異なる視点からの実験や分析を進め、提案モデルが支持されるか否かを確認する必要がある。特に内的な中心和音の存在は、音楽理論や音楽情報学の研究からも支持される仮説であるが、今後、これまでの実験で用いていない、より長い連鎖和音に対する主観的な整合性についても、提案モデルで説明できるかを確認していく。このとき、和音の組み合わせパターンの偏りがモデルの推定に偏りをもたらす危険性があるため、慎重な実験デザインが求められる。その解決策のひとつとして、進化計算等の数理的最適化手法の適用を検討中である。また倍音成分の付加など、音自体の持ちうる性質の変化が整合性判断に与える影響についても、モデルの普遍性を検証する上で重要である。さらに、リズム知覚等の他の音楽的モダリティに対する適用も含め、広い視点から検討を進めていきたい。 また主観的な整合性に関連する脳活動について調べ、内的なメカニズムに対する理解を深める。特に予備的な脳波計測で得られた脳活動パターンとモデル内変数との関連について調べていく。これまで、事象関連電位を用いて内的な計算モデルの実証を目指した研究は少なく、困難が予想されるが、様々な数理統計手法を駆使して挑戦していく。またその結果に応じて、脳磁図等の他の脳計測機器の活用も検討する。
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