研究課題
西洋音楽における長3和音が2~4個つながる和音進行について、聴取者に最後の和音がどのくらい直前の文脈に結びついた感じがするかを評定させ、その結果を記述するのに適切な数理モデルがありうるかどうかを検討した。和音が呈示されるごとに、聴取者が調性のような内的基準を更新し、これと直前に示される和音とによって、次に来る和音が確率的に予測されるとのモデルが、実験結果をうまく説明することが解った。さらに、このモデルから、従来の音楽知覚研究においてプローブ音法などの手法によって得られた調性プロファイル(最後にどの音名の音がよく当てはまるかを示すグラフ)に似たグラフを描きうることも解った。長調や短調などの調が必ずしも明確に生じないような、2~3個の和音がつながる短い系列においても調性の萌芽のようなものが生ずることを示すことができた。付点音符を含むリズムにおいて、楽譜に記された時価の比率と実際に演奏された音符の物理的な時間長の比率とのあいだに系統的なずれが生ずる現象について知覚実験による検討を行った。すなわち、クリック音を打楽器音のような音に見立てて、聴取者が音の始まりから始まりまでの時間長を調整することにより、「正しい」と聴こえるリズムを作ることを求めた。その結果、記譜上の時価の上で3:1、あるいは 1:3 となる付点リズムにおいて、対応する物理的な比率がより極端に(1:1 から遠く)なるときに「正しい」と感ぜられる傾向が見出された。1:3 の比率については、2分の2拍子のリズム・パターンにおける2小節目冒頭において、それよりも後の位置に比べて、記譜上の比率と物理的な比率とのくい違いが小さくなることが見出された。音脈、リズム、調性の知覚がどのような制約条件の下になされるかを過去の文献等に従って分析し、音楽知覚における体制化の原理について総合的な考察を行っている。
2: おおむね順調に進展している
和音進行の問題について、2-3個の和音からなる短い系列においても調性の萌芽のようなものが現れることを、筋の通った数理モデルの形で表すことができたことは、もともとの計画に沿うものである。また、この成果について国際学術雑誌に掲載することができた。付点リズムの知覚については、リズム・パターン全体の中での時間的位置の効果を新たに見出すことができた。この成果については、権威ある国際学会に発表することが認められた。さらに、音楽における知覚体制化に関して総論的な発表を、権威ある国際学会において行う予定である。
挑戦的萌芽研究としては最後の年度を迎えるので、過去の文献や音楽の実例なども参照して、音楽に関する知覚的体制化について総論的な発表を、2016年7月に横浜で行われる国際心理学会議にて行う予定である。和音進行に伴う音楽的緊張感について数理モデルを構築したが、データの統計学的な扱いに関して必ずしも満足しうる状態ではないので、データ分析をやりなおし、モデルの詳細を固めたい。いまのところ4個以内の和音が連なる系列しか実験に用いていないので、さらに長い系列を用いることを試みる。記譜された時価の比率と物理的な時間長の比率とのくい違いに関して、今回リズム・パターン全体の中での時間的位置の効果が見出されたので、この効果がどのような仕組みに由来するかを追究する。また、記譜された時価の比率が知覚されるためには対応する物理的な時間長をどのように決定すればよいのかを簡潔に記述することを試みる。
昨年度は和音進行に関する論文が年度末近くに国際誌に掲載決定がなされる見込みで研究を進めていたが、年度末に掲載が決定されるかどうかがはっきりしなかったために論文の掲載料や仕上げに要する諸費用を未使用のままにしていた。結果として当該論文の掲載が決定され、掲載料を支払ったが、要した費用は比較的少なかったために予算に余剰を生じた。
今年度は昨年度の研究内容について2つの国際学会で発表することを決めており、そのために当初の予定よりも多くの予算を要するので、昨年度の余剰分をこれに充てたい。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 2件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 8件、 招待講演 2件) 図書 (1件)
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