本研究では合成生物学において重要な、遺伝子発現制御のプログラミングを行うことを目的とした。最終的に、合成生物学を、一般の自然科学や工学と対比させることで、生物学のこれらからの差異を明らかにすると同時に、これらと生物学とをつなぐことで、生物学を飛躍的に発展する方策「設計生物学」の概念をまとめ、各種学会・研究会で発表することができた。 本研究では、種々の制御情報の中で、相手細胞からの細胞間通信分子を受け取って、相手を活性化させる分子を放出させる様式のポジティブフィードバックに注目した。ポジティブフィードバックは、短時間に細胞集団の挙動を変化させることができるという優位性を持つものの、細胞内反応のゆらぎにより自発的に活性化してしまうという欠点を併せ持つことが知られている。このため、物質生産に人工遺伝子回路を活用する際に、ポジティブフィードバックを活用することには非常な困難が存在すると考えられてきた。本研究ではこの問題を回避するために、ポジティブフィードバックを、2種の細胞を混合した場合にのみ発動する形式で構築し、研究を進めた。増殖速度の変化の測定の結果、抗生物質による増殖阻害による速度低下、および、相手からの通信分子によって誘導される耐性遺伝子の発現によって阻害が緩和され速度低下が回復する様相のみならず、通信分子の生産自体が増殖速度の抑制を生じさせている様相を、定量的に評価することができた。その結果を活かし、それぞれの細胞を別個に培養し、その培養上清を交換することが、ゲーム理論における囚人のジレンマの利得表を生きた細胞によって実装することになるという、新規の細胞集団挙動のプログラミングをすることもできた。
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