まず、研究において必要な実験の実施場所として、共同研究者(京都大学大学院・医学研究科)の研究室にて本研究課題の実験を行わせて頂いていた。しかし、共同研究者の転出により、当初予定していた実験の実施が不可能になった。 そこで、平成30年度は方針を変更して、コンピュータシミュレーションにより、生体メモリ分子CaMKIIの空間方向へのメモリ機能について調べた。我々の過年度の実験ではCaMKIIは隣接CaMKII分子と相互作用しなかった。この場合、CaMKII分子メモリの空間解像度は(理論的に)CaMKII分子一つとなる。しかし、近年の別の研究によりCaMKIIは状況により隣接分子と相互作用することが明らかとなりつつある (Bhattacharyya eLife 2016 Mar 7;5:e13405)。そこで、CaMKII分子メモリ同士が相互作用を持ちつつ二次元平面内を拡散するときの分子メモリの空間解像度をシミュレーションにより調べた。その結果、ある程度、空間解像度は低くなるものの、反応拡散メカニズムによりメモリは安定して存在できることが明らかとなった。 さらに、現実の脳のスパインと同じ形状のドメインにおけるCaMKII分子メモリの振る舞いについてシミュレーションにより調べた。脳では、NMDA受容体が活性化してスパインへCa2+流入が生じ、Calmodulin (CaM)と結合してスパインのCaMKIIが活性化することで記憶が生じる。シミュレーションでは、CaMKII活性(分子メモリ)は活性化スパインに局在するものの、分子メモリを消去する要素であるCalcineurin (CaN) の活性はスパイン形態に依存して非活性化スパインへ広がりうることが明らかとなった。
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