本研究では,日米を中心としたファン文化に特徴的に見られる,非商業的なものづくりの実践を調査対象とすることで,今日的な生産消費者としてのファンの姿を明らかにした. 3Dプリンタに代表されるデジタル工作機械の普及やソーシャル・ファブリケーションの概念が広まってきたことにより,ファン文化も再編されつつある.ファン文化には,もともと受動的にコンテンツを消費するだけではなく,映像クリップをリミックスしたり,キャラクターのコスプレ衣装を製作したりと,ニッチなグループの間でものづくりが流通していた.それは生産を伴う消費スタイルであり,今日的な「つくること」を通した繋がりを示すと言えよう. 中心を持たないゆるやかな人びとのつながりにおける日常的なものづくりのフィールドは,主に米国において分析がなされてきた.米国では,ファン文化のものづくり活動を「興味に基づき,仲間のサポートを得ながら,それを学業やキャリア形成,社会参加へと結びつけるConnected Learningの現場」とみなしている. 本研究では特に,日米の調査対象者らが「コスプレ」のためのクラフトワークを行う場面を取り上げ,彼女らが3Dプリンタなどのデジタル工作機械とどのような関係を取り結び,自身のものづくりを実現していくかに注目した.具体的には,調査対象者らがいかにデジタル工作機械を「密猟」し,ものづくりの裾野を半ば無意図的に拡幅していることが示された.調査対象者らは手工芸用品店や100円均一ショップで素材を購入しつつも,時にその商品が「狙っている用途」を超えて加工し,別のものを創り出す.このような「つくることを通したつながり」や,デジタル工作機械と彼女らが織り成すインタラクションを見ることで,デジタルファブリケーションが市井の人びとの日常に埋め込まれていく過程を見据えた議論を提供することになると考える.
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