硝化・同化・脱窒などの過程で複雑に変化する硝酸の動態解析を濃度だけで行うことは難しい。そこで窒素・酸素安定同位体指標を用いることによりその起源や反応の過程を把握できる可能性がある。従来の硝酸の同位体分析法では塩化カドミウムを亜鉛棒に析出させたスポンジ状の純カドミウムによって亜硝酸に還元した後、アジ化水素によって亜酸化窒素(N2O)に変換し、同位体分析を行っていた。初年度に従来法の改良を試み、硝酸還元に粒状カドミウムに銅コーティングを施すこと、pHを細かく調整することによって、ブランクの低減と反応時間の短縮をある程度達成できた。次年度は自大学で硝酸の同位体分析を可能にするため、設備の整備を進めた。既存設備であるガスクロマトグラフと同位体質量分析計(Isoprime 100)を組み合わせ、連続フロー型質量分析法を応用しN2Oの安定同位体の自動定量システムを構築した。システムはN2Oを濃縮するための真空ライン、ヘリウムキャリア中で液体窒素を用いてN2Oを濃縮するトラップ部、試料中に共存する同重体であるCO2と完全分離を行うキャピラリーカラム、高真空の質量分析計との接続を可能にするオープンスプリット部分からなる。構築したシステムについて感度、精度、測定時間について最適な条件を整えた結果、窒素・酸素安定同位体比について従来法と同等の感度、精度を得られることが分かった。今年度は同位体比の決定に必要な標準物質を作成した。市販の純試薬とは異なる安定同位体比を持つ物質を得るため、南極氷床コア上部の低い酸素同位体比を持つ水と酸素同位体交換させ、日常的に使用可能な量の標準物質を作成した。定量法を海水、陸水試料に応用し、硝酸の安定同位体比の定量を行った。また国際GEOTRACES計画に基づいてKH-14-6航海で採取された南太平洋の硝酸試料について分析作業を開始した。
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