研究課題/領域番号 |
26550008
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
安田 公昭 名古屋大学, 環境学研究科, 寄付研究部門教授 (40578457)
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研究分担者 |
西田 民人 名古屋大学, 環境学研究科, 助教 (60313988)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 環境計測 / 溶存有機物 / 化学海洋 |
研究実績の概要 |
海水中に存在する溶存有機物は、地球表層の最大有機炭素プールである。溶存有機物の70%以上が分子量1,000以下に存在している。しかしながら、分子量1,000以下の有機物の化学的研究例はほとんど無い。 本研究は、現状では濃縮・脱塩が技術的な困難である低分子量溶存有機物を化学反応性の高い構造既知の高分子であるポリエチレンイミンの反応活性部位と化学結合させ、低分子量溶存有機物-ポリエチレンイミン高分子を合成し海水中の分子量1,000以下の低分子量溶存有機物に含まれる有機分子種同定のための新たな方法を開発・提案する。 本年度はポリエチレンイミンの官能基と低分子量海洋溶存有機物を化学結合させるための反応を、海水試料を用いて条件検討した。ポリエチレンイミンは、水溶性のポリマーであるため、ポリエチレンイミン水溶液を調製し反応に供した。ポリエチレンイミンと海水試料に含まれるアルデヒド基、ケト基およびカルボキシル基等を有する有機物について海水条件下での反応条件を検討した。得られた誘導体化試料は、限外濾過法で濃縮した。反応生成物の構造解析は、1次元および2次元核磁気共鳴分光法を用いて行った。ポリエチレンイミン添加量、塩濃度、pH、反応温度などを変化させ、様々な条件下で低分子量溶存有機物-ポリエチレンイミン高分子の生成量、反応効率および反応生成物の構造に関する情報を得た。本方法の適用により、特にポリペプチド(分子量200~700)が高収率で海水試料から得られ、反応生成物をアルカリ加水分解することで、ポリペプチドを液体クロマトグラフィー質量分析計で測定可能にし、海水中ポリペプチドのアミノ酸配列に関する知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度行った、実海水試料でのポリエチレンイミン誘導体の合成実験は成功した。本方法は、実際の海水試料に本法を適用可能であると判断できる。特にポリペプチドについては、存在量に加え、アミノ酸配列の関する情報が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
ポリペプチド以外の低分子量炭水化物および複合糖質に関しても知見が蓄積されつつある。これらの化合物に関しても高次構造解析を行うとともに、海洋環境における低分子量有機物の分布および実験的アプローチから低分子量溶存有機物の生成速度を測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究において、ペプチドの高次構造が解析可能となったことで、低分子量溶存有機物の化学的特性に関する知見を得ることに注力した。本年度得られた低分子量炭水化物、脂質に関する知見も加えて、低分子量溶存有機物の生成実験の方法をより高度化する必要があることが判明した。
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次年度使用額の使用計画 |
低分子量溶存有機物の生成実験の方法については、炭素、窒素安定同位体を添加することで高感度で生成物を核磁気共鳴法により分析できることがわかっており、加えて実験系より採取した試料を高分子誘導体化した後、いったん凍結し、解凍後に限外濾過法により高収率の回収が行えることが判明したため、これらを加味した低分子量溶存有機物の生成実験を行う予定である。
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