研究課題
地球環境の変動を理解するためには,地質試料を用いた古環境解析が重要な手法の一つである.本研究では,琉球列島サンゴ礁域の表層~水深100mに生息する硬骨海綿について,骨格の各種化学組成を高時間分解能で分析し,海洋環境指標(プロキシ)の有用性を評価するとともに,Newプロキシとなる元素(同位体)を探求することを目的とする.そして,サンゴやシャコガイのデータとの比較から,琉球海域表層~水深100mにおける水温と塩分の長期変動の類似性と相違性を明らかにすることを目指している.本年度は,琉球列島から採取した複数の硬骨海綿試料を切断整形した後,デジタルX線画像撮影による骨格成長輪構造を解析した.その結果,明瞭な成長輪がみられ,成長輪幅は約数百マイクロメートルであることが確認された.骨格の成長方向に沿って0.2~1mmの分解能で粉末試料を採取し,安定酸素炭素同位体組成分析を実施した.それにあたり,微小空間マイクロサンプリングの手法ならびに,微量炭酸塩の分析ルーチンを確立した.その結果,硬骨海綿試料の酸素同位体組成は,小氷期以降にみられる長期的かつ緩やかな減少傾向を示し,炭素同位体組成は人為起源二酸化炭素の増加の影響を受けた特徴的な減少カーブを描くことがわかった.これらの結果は,サンゴ年輪の同位体組成記録とも調和的であり,本研究試料はおよそ200年~300年の生息期間を有していると推定される.得られた成果は,随時国内外の学会などで発表した.今後,放射性同位体年代測定による正確な形成年代推定が重要であることを確認した.
3: やや遅れている
本研究は,概ね2014年度の研究実施計画どおり進められたものの,現地野外調査ならびに高分解能微量元素分析を実施することができなかった.現地調査については,本研究目的に最適な現場の選定に苦慮したことや,天候と海況が悪く調査日程の調整ができなかったためである.微量元素分析については,使用するレーザーアブレーションシステムに不具合とトラブルが生じたためである.一方,この状況を踏まえて,それ以外の実施計画項目を精力的に推進した.具体的には,硬骨海綿試料の整形作業,X線画像撮影による成長輪解析,安定酸素炭素同位体組成の高時間解像度分析とその一連手法の確立,がある.これによって,硬骨海綿骨格の基本的情報と長期古海洋記録を抽出することに成功し,成果を学会等で発表した.以上の進捗状況から,本研究は計画に沿って進められているものの,当初の予定よりは若干遅れていると判断される.
基本的に2015年度の研究実施計画どおりに進めていく予定である.2014年度で延期となった野外での現場調査は,2015年度前期中に実施する予定である.レーザーアブレーションシステムが復旧し次第速やかに,微量元素組成の高解像度分析を開始する.また,放射性同位体年代測定による硬骨海綿の正確な生息期間を決定し,化学組成の時系列データ構築を推進する.得られた成果は国際学術雑誌に投稿するとともに国内外の学会で発表する.
2014年度に予定していた現地野外調査の調整がうまくいかず,次年度に延期になったため,その分の旅費などの費用を次年度に繰り越すこととなったため.
2014年度に予定した現地野外調査を2015年度前期(7月~9月)で実施する予定である.
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Marine Pollution Bulletin
巻: in press ページ: in press
10.1016/j.marpolbul.2015.02.037
Island Arc
in press
巻: 24 ページ: 61-72
10.1111/iar.12076