気象要素の一つである気温鉛直プロファイルのライダー観測は、風や水蒸気に比べて未だ安定した観測が実現していないのが現状である。本研究では、金属蒸気レーザ等取扱いが容易な光源と安定した狭帯域特性が得られる金属蒸気フィルタを使った新しい高スペクトル分解能(HSRL)方式の気温計測ライダーの開発を行った。本システムは地表から対流圏全域にわたる気温の鉛直分布を測定するための小型で無人観測が可能なライダーであり、気象学、環境学、防災工学などへの大きな寄与が期待される。 HSRL用の狭帯域フィルタとして、従来の原子・分子吸収フィルタの代わりにカリウム原子(K)異常分散ファラデーフィルタ(FF)を用いることを提案し、これにより強いミー散乱成分を抑えつつ狭い帯域幅を得る事が可能になり、日中における背景光を大幅に除去し昼間の観測が可能となることを示した。さらに、フィルタにかける磁場の安定度が気温測定誤差に与える影響について検討し、磁場の変動の影響が少ないフィルタの組み合わせを提案し、この組み合わせにより高度0~6Kmの気温を誤差1K以内で測定可能であることを示した。 次に気温観測ライダーの実用化に向けて、室内実験を行った。実験は気温を一定に保ったBOX内に、Kの共鳴波長770nmに同調した狭帯域CWレーザを照射し、レンズで集光した散乱光を異なる磁場に設定したK-FFで透過光強度を測定した。得られた透過光強度比の気温依存性を理論値と比較した結果、良く一致していることが確認出来た。さらに半導体アンプ(TSOA)を用いた高出力光源を開発し、屋外の上空200mの気温計測実験を行い、屋上設置の温度計と良く一致することが確認出来た。
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