研究課題/領域番号 |
26550015
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
朝隈 康司 東京農業大学, 生物産業学部, 助教 (60349818)
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研究分担者 |
塩本 明弘 東京農業大学, 生物産業学部, 教授 (40344329)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アイスアルジー / 海氷 / 蛍光観察 / 資源量見積り |
研究実績の概要 |
平成26年度は、氷中のクロロフィルa濃度の計測方法の検討、サロマ湖を対象に実海氷中のクロロフィルa濃度の検出可能性について検証した。氷中のクロロフィルa濃度に関しては、発振波長 405 nm、出力 200 mWのCW紫レーザー光源(本学術研究助成基金助成金により購入)を励起光源として、実験室内で作成した疑似海氷上部から照射し、氷下に注入したクロロフィルa標準物質の蛍光を、氷上部に設置したファイバー分光光度計(既設)を用いて計測した。疑似海氷はサロマ湖を想定して塩分32 psu、温度 -4 ℃で凍らせたものを 1から5 cm、クロロフィルa標準物質は100から400 μg / Lに変化させながら計測した。この結果、疑似海氷下の蛍光値は氷厚5 cmで クロロフィルa濃度と線形な関係が得られた。同時に疑似海氷の透過率ならびに消散係数を求めたところ疑似海氷の透過率は20 cmで0.1%以下となった。アイスアルジーが光合成をおこなっている実海氷の透過率を文献から推測すると、氷厚40 cmで約3 %程度と考えられるため(Satoh, Yamaguchi, et.al.,1989)、疑似海氷の消散係数は実海氷の4倍程度あり、実海氷ならびにより実海氷により近い疑似海氷でのデータ蓄積が必要である。 また、サロマ湖の実海氷2サンプルを入手し、円筒形に整形し、上方から下向きに紫レーザーを照射して横方向から蛍光値を計測した結果、氷厚40 cm においても励起光の透過ならびに氷によるラマン散乱光、アイスアルジーによる蛍光を観察した。海氷の構造を解析するために導入した音波探傷器で計測した結果、海氷内の音速はブラインホールなどにより低密度であることから、雪氷を押し固めたもの(数百 m/s)と真水氷(3200 m/s)の間にあることを想定していたが、真水氷より数%ほど速いことを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
氷中の蛍光量観察については概ね順調である。当初の予定ではガイド光利用のため多色レーザーを想定していたが、単色レーザーで十分な蛍光量観察が可能であることを確認した。現場計測を考えるうえでは、装置は単純なほうが良いと考えられるからである。 ただし、クロロフィルaの氷柱積算量を求めるには、当初の予定通り氷中の散乱過程に関わる内部構造の把握が重要である。このために超音波探傷器を用いた内部構造解析を行っているが、剛体の探傷とは異なり温度による変化の大きい海氷では当初の予想を超えて計測に熟練が必要だった。このためデータの蓄積に時間を要しており、数ヵ月程度の遅れを生じている。これとは別に、実海氷の計測中に副次的に海氷によるラマン散乱光を観測し、これが透過励起光量と線形な関係にあるため、代替の方策の1つとして音波と平行して氷の内部構造解析に利用することを検討している。
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今後の研究の推進方策 |
H26年度は、疑似海氷の生成条件と透過、散乱特性の関係を1次元的に取得してきたが、今年度は2次元的なデータベースに拡張していく。励起光源とする 405 nmの紫光は氷厚 40 cm 程度の実海氷を透過することがわかり、アイスアルジーによる蛍光(670 nm)も横方向からの観測は可能であったが励起光と比べて微弱でありかつ氷による吸収もあるため、既設のファイバー分光器では上方からの観測が難しい。そこで、望遠鏡を用いてある程度広い面積で蛍光を集光し、バンドパスフィルタと超高感度センサ(浜松ホトニクス製MPPC, 平成26年度末に購入)を用いた観測を計画している。海氷自体は散乱が大きく1点のレーザー照射のみで広範囲に広がるが、この広がり角などの光学パラメータは氷の生成過程つまりブラインホールなどの配置、密度に依存する。昨年同様冬季までは疑似海氷を用い、結氷時期には実海氷を用いてデータ収集を継続する。 現場観測を考えた場合、サロマ湖など広範囲の計測にはUAVや航空機への搭載を検討する必要がある。上空からの場合、音波の利用が困難となるので、音波と1対1に対応した海氷構造を取得する手法を検討する。この方策は現在のところ2通り考えられる。1つはマイクロ波を利用する方法で、氷の構造によって誘電率が変化することを利用する。前述のデータベース構築時に、誘電率も同時に計測しデータベースに追加する。もう1つは、励起光レーザーをそのまま利用する方法で、細いビーム径、浅い角度で入射された励起光が氷内で上方に散乱またはラマン散乱されたものをスキャナかアレイで観測する方法である。アイスアルジーの観測は、海氷内有効層の数十センチ程度で行うため、氷中の光路が短く後方散乱を時分割するライダーは使えないことから、この方法が有効であると考え、前述の広がり角等含めの観察を開始した。
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備考 |
渡部俊弘、黒滝秀久監修, 生物産業学のフロンティア フィールド研究と地域連携, 三共出版, 第3章 p.48 アイスアルジーのリモートセンシング手法の開発, 2015
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