オホーツク海南部北海道沿岸は海氷が着氷する南限であり、着氷中はアイスアルジーの生育に適した環境となる。アイスアルジーは海水中の植物プランクトンより単位体積あたりの個体数が多いため基礎生産が高く海洋生態系に大きく影響を与えている。アイスアルジーの試料採取にはアイスコアの採掘など大変な労力がかかるため、海氷中の総量見積が難しい。本研究では、リモートセンシング技術を用いてアイスコアを物理的に採取せずにアイスアルジーのもつクロロフィルを計測し、アイスアルジーのバイオマスを見積もる手法の開発を目的とした。 まず実験室環境で人工海氷を作成し海氷下にクロロフィルa標準物質を配置したモデルを作成した。この人工海氷上部から励起光レーザーを照射し、海氷-クロロフィルa-海氷の放射伝達過程によりスペクトロメーターで観測されたクロロフィルaの蛍光量から濃度を定量できることがわかった。これを一般化して実海氷に展開するには、海氷厚のみならずその生成過程に依存する海氷の透過特性を知る必要があった。このため結氷温度を様々に変えて人工海氷を作成して、結氷温度によって変化する海氷中の柱状結晶(グレイン)の成長と海氷自体の消散係数や散乱角との関係を明らかにした(平成27年度)。 実海氷に対しては、サロマ湖において採取された海氷コア上部から励起光レーザーを照射し、スペクトロメーターならびにフィルタリングされた高感度カメラによってアイスアルジーの蛍光を確認した。この装置を小型化して無人航空機(ドローン)に搭載し、屋内における人工海氷下のクロロフィルa濃度の定量には至ったが(平成28年度)、天候などの都合により、当初挑戦課題としたサロマ湖全体のバイオマスを見積もるには至らなかった。今後引き続き、フィールド展開をおこない冬季海氷中のバイオマスの把握に努める。
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