研究課題/領域番号 |
26550016
|
研究機関 | 茨城工業高等専門学校 |
研究代表者 |
石村 豊穂 茨城工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (80422012)
|
研究分担者 |
池原 研 独立行政法人産業技術総合研究所, 地質情報研究部門, 総括研究主幹 (40356423)
長谷川 四郎 東北大学, 学術資源研究公開センター, 協力研究員 (90142918)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 有孔虫 / 安定同位体比 / 再堆積 / 微量分析 / 環境指標 / Uvigerina属 / 炭酸塩 / ばらつき |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,底生有孔虫の個体別同位体比分散(以下,バラツキ)という新しい尺度を活用して海洋底層環境指標の高精度化を試みることにある. 平成26年度は,Uvigerina属の個体別同位体比のバラツキの程度を見積もることによって,再堆積作用の評価ができると考え,その応用を試みた.これまでの私たちの研究で,Uvigerina 属は安定同位体比の均質性が高く(個体分散が小さい),1個体でも環境指標としての活用に適していることがわかってきている.しかし,どの海域・深度で採取した個体でも海洋試料としての信頼性が高いというわけではない. 検討試料には十勝沖および日高西方沖の大陸斜面から,産総研GH02/GH06航海にて採取された表層堆積物試料を用い,微量炭酸塩安定同位体システム (MICAL3c)で分析をおこなった. 分析の結果,海底地形が複雑で海流環境が安定していない地点では有孔虫の個体別同位体組成は不均質で,比較的平坦で海流環境が安定している地点では均質な同位体値を示し再堆積が生じていないことを見出した.特に十勝沖では明らかに氷期の同位体値を示す個体が共存しており,再堆積の事実を明らかにするとともに,地点毎の再堆積の影響の違いも明確にすることができた.本研究の結果は,個体別の安定同位体組成を活用した再堆積の影響評価が可能であり,研究地点毎に環境指標としての信頼性を見積もる基礎データを提供できることを示す初めての研究成果となった.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績でも述べたように,これまで分析不可能だった同位体比データを集積し,新たに高精度化された海洋底層環境指標の提示が可能になることを明らかにした.本研究は有孔虫の個体同位体組成分散(バラツキ)という新しい概念を活用した基礎研究であり,得られる成果はこれまで未知であるとともに,今後の有益な知見となる. さらに本研究の意義の1つに,国費によって得られた貴重な地球科学試料の積極的な再活用を可能にし,その付加価値を高め,有効活用を促進する点が挙げられる.地球環境の将来予測や,海洋資源探査に向けて,今後も多くの海洋試料が収集されて行く中で,本研究参画者それぞれの独自性を活かすことにより,新しい環境指標の基礎データの集約と汎用化を通じて,環境指標・環境試料それぞれのさらなる活用を可能にすることを明示した. また,個別に分析したデータは「研究データの再活用」を容易にすることを目的に,ユーザーが検索可能な形でデータ整理し公開することを計画しており,その基盤として有孔虫文献および模式標本の画像データベース(2002年から継続開発)を茨城高専にて再公開し,(http://www.foram.jp),実際の運用を開始することができた.
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度は本研究課題の最終年度であり,以下の研究目的に沿った研究を推進し,研究課題終了後の成果活用に向けた基礎データを蓄積する.最終的に現生・化石試料へ応用する際の活用方法や指針について明らかにし,今後の活用へとフィードバックする.
① 他地域との比較 底生有孔虫の種別安定同位体組成を評価する比較試料として,北西太平洋広域の表層堆積物から抽出済の有孔虫サンプルを用い,必要に応じて比較試料として活用する. ② 化石試料との比較 同位体バラツキ指標の時空変遷を辿るために,北海道周辺で得られた柱状コア試料から底生有孔虫を抽出し,時代毎のバラツキ度合いの近似性の有無を明らかにする.近似性がありvital effectが小さい種については,特に海域・時代を問わない信頼性の高い底層環境指標として認定し,今後の活用指針を提示する. ③ データ集積と可視化 得られた分析結果をもとに有孔虫同位体データのデータベース化を試行するとともに,北海道周辺における底生有孔虫同位体組成2次元マッピングとの連携をはかる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題初年に当たる平成26年度は研究費を当初の目的に沿っておおむね使い切っている.
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年度も研究計画に沿って研究課題を推進できる予定であり,分析に関わる消耗品や試料選定および学会参加などの旅費,研究成果の取りまとめに用いる.
|