研究課題
本研究の目的は,底生有孔虫の個体別同位体比分散(以下,バラツキ)という新しい尺度を活用して海洋底層環境指標の高精度化を試みることにある.昨年度は深海域に汎世界的に生息するUvigerina属の安定同位体比が均質であり,環境指標として適した底生有孔虫種であることを見出した.一方で、Bolivina spissaも深海域で広く産出されているが,環境指標としての有用性は未だわかっていなかった.またB. spissaの形態の特徴を大きく3タイプに分類できることも見出していた.そこで,B. spissa を形態ごとに分類し,各々の安定同位体組成に違いがあるのかどうかを検証した.さらにIslandiea norcrossi,Eiphidium batialisなどについても環境指標としての有用性を検討した.検討試料には十勝沖および日高西方沖の大陸斜面から,産総研GH02/GH06航海にて採取された表層堆積物試料を用い,微量炭酸塩安定同位体システム (MICAL3c)で分析をおこなった.B. spisssaは,3タイプともに酸素同位体値が同位体平衡値に近く,標準偏差が±0.1‰程度の範囲に収まっており非常に安定した値をとっている.この結果は、B. spisssaが水温指標として有用であることを明確にした.一方で炭素同位体値は携帯によって0.4‰程度の違いがあることがわかった.I. norcrossiは,U. akitaensisと同様に同位体平衡に近いことがわかり環境指標としての有用性が高いと認定できる.一方,E. batialisの安定同位体組成は他種よりも1~2‰低く,個体間のばらつきも大きい(±0.5‰程度).本年度の結果から,B. spissaとI. norcrossiは、環境指標としての信頼性が高いと認定することができた.今後は他地域でもB. spissaの同位体比特性を検証し、環境指標としての信頼性と汎用性をさらに確認する必要がある.
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Paleontological Research
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10.2517/2015PR036