研究課題/領域番号 |
26550018
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研究機関 | 国立研究開発法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
伊藤 昭彦 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 主任研究員 (70344273)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 陸域生態系モデル / 暗呼吸 / 炭素循環 / 地球変動 |
研究実績の概要 |
植生の暗呼吸によるCO2放出は、地球環境変動に対する陸域生態系の応答、特に炭素収支変化を定量的に推定する上で鍵となるプロセスであり、近年注目を集めている。最近になり、暗呼吸の温度順化など新しい知見が多数報告されるようになり、それを陸域生態系モデルに取り入れるための情報収集とモデル検討を進めた。陸域生態系モデルVISITを用いて、過去の1901〜2015年までのシミュレーションを実施し、この期間の全球的な温度上昇に伴って植生の呼吸量は徐々に増加してきた可能性が示唆された。この時点の推定は、温度順化を取り入れていないモデルによるものであるが、大気CO2濃度の季節振幅に対する呼吸の影響など重要な示唆が得られた。呼吸の温度応答の定式化に関し、従来のQ10をパラメータとする指数関数だけで無く、化学反応論に基づくArrhenius型関数の適用を検討した。また、微気象学的観測サイトを中心にして、VISITモデルによるCO2交換の検証を実施した。関連して、それらのサイトにおけるモデル相互比較プロジェクトにも参加し、他のモデルとの比較検討を実施中である。昨年度から引き続き、植生の暗呼吸のより生理生態学的に厳密な定式化を行うため、最新の呼吸研究に関する情報収集と分析を進めた。植物体内では、光合成による炭素同化と、呼吸による炭素消費が密接に関連しており、細胞内での基質の共有などモデル化の手がかりとなる要素が特定された。また、植物体の窒素やリンの濃度と呼吸速度の関係も徐々に実験データが蓄積されており、それをモデル化するための方策を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物の暗呼吸に関する最新の研究動向について多数の文献を収集し、広域スケールのモデルに反映させるための方策を検討した。このような問題意識を持つ研究者により、呼吸に関するデータベースが構築されつつあることが判明し、それを利用することで研究の進展が飛躍的に加速されることが期待される。モデル検証を行う為のCO2フラックス観測データに関して、2015年に新しい全球データベースがリリースされており、それを入手して利用することができた。
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今後の研究の推進方策 |
呼吸のモデルに関して、最新のデータベース類を利用することで、検証と高度化を加速することができると期待される。生態系スケールの暗呼吸に関するメタ分析の成果は、幾つかの学術誌に投稿したが受理にいたっておらず、引き続き修正を加えて掲載を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
陸域生態系モデルの改良について、次年度に作業を集中させるため人件費・謝金を繰り越したため。また、成果がまとまる翌年度以降に学会発表を行う旅費を使用するよう次年度に旅費を持ち越したため。
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次年度使用額の使用計画 |
データ収集およびメタ分析、モデル高度化の検討を進めたことで次年度に効率的にモデル拡張を進める。陸域生態系モデルにおける呼吸推定の高度化を進めるために研究補助員を雇用し、メタ分析及びデータの整備を進めるとともに、呼吸過程のモデル表現の高度化を図る。
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