研究課題/領域番号 |
26550019
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研究機関 | 独立行政法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
塚崎 あゆみ 独立行政法人産業技術総合研究所, 環境管理技術研究部門, 研究員 (40585402)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 海洋有機物 / 糖鎖 / ペプチド鎖 / 物質循環 |
研究実績の概要 |
本研究は、糖ペプチドの働きによって海洋有機物が分解酵素から保護され海水中に蓄積するという仮説を立て、糖ペプチドの化学的性質を明らかにすることで糖ペプチドが海洋有機物の蓄積に果たす役割の解明を行うことを目的としている。海洋有機物の分解過程の初期段階に位置する海洋表層懸濁態有機物に含まれる糖ペプチドの構造解明をおこなうため、平成26年度は分析に必要となる海洋表層懸濁態有機物を大量の海水から集め、濃縮・均質化を行った。研究計画では、懸濁態有機物の収集には海洋有機物濃度が高くサンプリングが容易であると予想された産総研阿賀臨海実験場(広島県呉市)の海水くみ上げ施設を利用することとしており、実際に採取した海水には粗い粒子が非常に多く含まれ濁りがみられた。しかし採水後数分で海水中の粒子は沈殿したことや色から、粒子は懸濁態の有機物ではなく、おそらく潮汐や風による攪乱およびくみあげポンプからの吸引によって巻き上げられた海底の砂粒と考えられる。また、海水の栄養塩濃度を測定したところ、無機窒素・リンともに沿岸域にしては低濃度であった(2 uM N、0.2 uM P)ことからも、それを利用するプランクトンを含む懸濁態有機物量はさほど多くないことが予想された。そのため阿賀臨海実験場で採取可能な海水からの糖ペプチド画分の濃縮は困難と判断し、計画を変更して伊勢湾および赤道域航海でフィルター上に採取した表層懸濁態有機物試料を名古屋大学より提供いただくことにした。今年度はこれらの試料についてフィルターごと凍結乾燥し、フィルター表面の表層懸濁態有機物試料の剥離を行った。剥離した有機物はまとめてめのう乳鉢で粉砕・均質化し、次年度以降糖ペプチドの精製、ペプチド鎖の定量に使用する海洋有機物試料の粉末ストックを作製した。これらの粉末試料について試料中の元素分析のための前処理を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度の計画では、まず海洋表層懸濁態有機物の濃度が比較的高くサンプリングが容易な沿岸海洋水を使って糖ペプチドを集めることと、分析手法の検討を行うこととしていた。産業技術総合研究所阿賀臨海実験場(広島県呉市)に設置されている沿岸海水くみあげ装置を利用して沿岸海水を大量採水することで懸濁態有機物の濃縮は容易に達成できるものと予想していたが、実際に大量採水を試みたところ、得られた海水は懸濁態有機物に乏しく懸濁態有機物の濃縮には適さない海水であった。採取した海水には粒子が非常に多く含まれ濁りがみられたが、粒子は採水後即座に沈降したこと、粒子の色、そして栄養塩が低濃度あったことなどから総合して判断すると、粒子の多くは海底の砂粒が巻き上がったものであり懸濁態の有機物ではないものと考えられた。したがって阿賀臨海実験場の試料から糖ペプチド画分の濃縮は困難と判断し、計画を変更することとなったため、遅れがでている。計画していた試料の代替試料として、伊勢湾および赤道域航海でフィルター上に採取した表層懸濁態有機物試料を名古屋大学より提供いただけることになったので、今年度はこれらの試料をフィルターごと凍結乾燥し、フィルター表面の表層懸濁態有機物試料を剥離した。剥離した有機物はまとめてめのう乳鉢で粉砕し、均質化された海洋有機物試料の粉末ストックを作製した。現在これら試料について試料中の有機炭素量・窒素量の測定を進めている段階であり、当初の予定からは幾分か遅れている。次年度以降はこの粉末試料を使用して糖ペプチドの精製、ペプチド鎖の定量へと実験を進めていくこととする。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度に調整した海洋表層懸濁態有機物試料を使用して懸濁態有機物中の糖ペプチド鎖を抽出・精製し化学的特性を明らかにする。まず沿岸で有機物濃度の高い伊勢湾の試料を用いて糖ペプチドを抽出・精製し、糖ペプチド画分のアミノ酸組成分析および糖鎖の加水分解条件の検討・単糖組成分析を行う。続いて赤道域の試料について、沿岸試料で検討した方法を適用して糖ペプチドの定量を行い、海洋有機物における糖ペプチドの寄与を明らかにする。 さらに種々の酵素・酸をもちいて糖鎖とペプチド鎖の切断法の検討を行い、糖ペプチドのペプチド鎖の分子量およびアミノ酸配列を決定することで糖ペプチドの起源生物の解明を行う。糖ペプチドの化学的性質や起源が海域によって異なるのか、普遍的な海洋有機物の残存メカニズムとして糖ペプチドが機能しているのか否か明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
計画していた方法での海洋有機物試料の採取が難しく、平成26年度内に海洋有機物試料から抽出した糖ペプチド鎖の化学分析を行うことが困難となり次年度以降に行うこととなったため、分析用の試薬や分析機器消耗品については購入をせず繰り越した。計画の遅れに伴い、研究成果発表用の旅費も使用しなかったが、名古屋大学から試料を提供いただいたため、試料輸送費が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は、糖ペプチドの糖鎖とペプチド鎖の精製に用いる試薬類、分析機器の運用に当たり必要な消耗部品ならびに機器分析に使用する試薬、器具類を26年度からの繰り越し分と27年度分を合わせて購入する。旅費として、日本海洋学会やOcean Sciences Meetingにて成果発表を行うために交通費および宿泊費の使用を予定している。また、その他の経費としてペプチド鎖のアミノ酸配列決定のための受託分析、学会の参加費等を予定している。
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