研究課題
地球表層での金属元素の循環様式の詳細把握のために、さまざまな試料からの目的元素の単離法と、高精度同位体分析手法の確立を目的とした。これらの確立した技術を主要な地質学的試料に適用して、金属元素同位体比の地球表層での変動幅を把握し、人為的に放出された金属元素の環境への負荷量の定量的把握指標としての可能性を検討した。昨年度は、ニッケルの地質学的試料からの化学的単離法について、従来法の欠点を克服し、ジメチルグリオキシムを利用しない新たなニッケル単離法を確立したが、今年度は、イオン交換分離条件のさらなる最適化を行った。これにより、化学分離に必要な時間を約半分に、また化学分離操作中のニッケルの混入割合が従来法に比べて一桁以上低く抑えられており、微量なニッケルを含む環境試料の同位体分析への応用が期待される。確立したニッケル単離手法と同位体分析手法を用いて、岩石圏・水圏・大気圏に由来する試料の同位体比を分析した。それぞれ複数の玄武岩、マンガン団塊、大気エアロゾル試料からのニッケルの化学分離と同位体比測定を行った。その結果、ニッケル同位体比には0.05%程度の変動が認められ、ニッケル同位体比の天然での変動幅は、報告されている銅や亜鉛のものと比べて小さいことがわかった。エアロゾル試料のニッケル同位体比は重い同位体に富んでおり、これは石油や石炭などの化石燃料の燃焼により人為起源的に大気に放出されたニッケルの同位体比を反映している可能性がある。これらの同位体変動を指標として、環境中へ排出された人為起源的ニッケルの割合の定量的評価を含めた、ニッケルの地球表層での循環様式の詳細把握への応用が期待される。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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