微生物は海洋表層から深海底に至るあらゆる水塊環境に生息するが、その分布は、化学、物理条件によって支配され、決して一様ではない。非常に単純化するならば、海洋における微生物活動と物質循環の関係は、海洋表層で光合成により合成された有機物が微生物により分解されつつ、また同化されつつ沈降し、海底に至るというものであるが、実際には物理的な成層構造や、海洋循環に伴う栄養塩の供給等にも複合的な影響を受ける。そして、この成層構造や潮流は、微生物集団の遺伝子フローにおいても影響を及ぼす可能性が、これまでの研究からも示唆されている。本研究の目的は、北太平洋極域から南極、そして北太平洋亜寒帯域まで循環する深層熱塩循環の深海微生物群集群集組成、遺伝子集団構造に及ぼす影響を探ることにある。 本研究では、平成26年度において北太平洋亜寒帯域を東西に横断する測線で採取した海洋表層から海底直上までの微生物群集について、微生物細胞数及びウイルス粒子数の定量、16S rRNA遺伝子タグ解析を実施した。また、これらについて、より詳細な遺伝子ポテンシャルを探る為のメタゲノム解析を展開する為の微量核酸からのショットガンメタゲノムライブラリー構築手法の構築を行った。一連の解析により、この海域における海底直上に至る深海水塊中の微生物群集のマスや組成は、海洋表層からの単純な沈降に支配されるのではなく、熱塩循環を中心とする水平方向の物理的環境により大きく影響を受けることが明らかにされた。また、今後の深海微生物集団の遺伝子ポテンシャルを探るに不可欠な微量メタゲノム解析技術においては、わずか1ngのDNAから安定的にショットガンライブラリーを構築するフローの確立に成功している。
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