研究課題
低線量と中・高線量照射で放射線応答機構が同じかどうかは明らかでない。細胞致死を指標にした低線量域でみられる放射線抵抗性(擬似しきい値、いわゆる細胞生存曲線の肩)を説明するために、物理学的損傷に基づいた標的説やαβモデルが考案された。これに対して、低線量と中・高線量照射でのDNA修復能力の違いにより説明する生物学的なSaturated Repairモデルは1962年に提唱されたが、当時DNA修復能力を実測出来る方法が無かったために長年顧みられることはなかった。このため本研究では、最新のレポーター遺伝子技術を用いて、低線量と中・高線量照射時の細胞内の相同組み換え修復および非相同末端再結合能を定量的に測定した。この結果、相同組換えと非相同末端再結合では被ばくした放射線量依存性が大きく異なることが判明した。つまり、非相同末端再結合では放射線量に依存して活性化するのに対して、相同組換えではその活性がsaturateして中高線量では機能しない可能性が示された。この結果、抗体を用いたい免疫染色や蛋白の酵素活性測定でも観察された。今後は両修復機構で挙動が異なる原因について解析して、我々の観察結果をさらに確認する予定である。
2: おおむね順調に進展している
相同組換えと非相同末端再結合では被ばくした放射線量依存性が大きく異なることを日本放射線影響学会鹿児島大会(斎藤裕一朗、他、2014年10月1日)で発表した。また、その原因となる機構について30th RBC-NIRS International Symposium(Y. Saito, et al., 2015年2月20日)において発表して、出席した外国人研究者に大きなインパクトを与えて有益な助言が得られた。今後は、これらの助言を取り入れることにより、予定通りに研究計画を遂行出来ると確信している。
今年度半ば迄には今までの研究成果を学術誌に投稿、その後は必要な追加実験も行って今年度中に確実に終了する。
本研究は2年計画であり、当初計画に沿って実験を進めた。しかも、実験の一部に関して放射線生物研究センター側からの支援もあって、経費の一部を節約できた。
次年度使用額が多くなったので、実験回数を増やすことによりSaturated repair model検証の精度をさらに上げる予定である。
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