研究課題/領域番号 |
26550026
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
高田 穣 京都大学, 放射線生物研究センター, 教授 (30281728)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ファンコニ貧血 / ALDH / アルデヒド |
研究実績の概要 |
ファンコニ貧血(FA)はまれな小児の遺伝性疾患で、奇形、白血病、進行性骨髄不全を特徴とする。FAの原因遺伝子は「FA経路」と呼ばれるDNA損傷修復経路を形成し、その欠損は、未修復の損傷をゲノム上に蓄積し、臨床症状を来すものと理解されている。最近、細胞内でFA経路が実際に修復している損傷が内因性アルデヒドによることが示された。FAにおける造血幹細胞を中心とした組織特異的な症状発現は、アルデヒドの細胞内蓄積が組織特異的な因子によって影響されていることを示唆する。今年度は、アルデヒド分解酵素の5種類のアイソザイム(ALDH1A1、ALDH1A2、ALDH1A3、ALDH1B1、ALDH2)の発現を、real time PCR法で、CD34陽性骨髄細胞、胎盤、成人肝臓、胎児肝臓4種類のヒト組織/細胞で検索した。面白いことに、CD34 陽性で主に造血幹細胞ないし前駆細胞を含むと思われる細胞では、ALDH1A3が最も高いレベルで発現し、次にやや少ないがALDH1A2が主に発現しており、ALDH2の発現はかなり低いらしく認められなかった。肝臓ではALDH2の発現が最も高いアイソザイムであった。胎盤ではいずれのアイソザイムの発現も低いことが判明した。モデルマウスの研究では、FAかつALDH2欠損の仔マウスは、ALDH2欠損母マウスからは産まれないことが示唆され、胎児+母体がユニットとしてALDH2による内因性アルデヒド分解が機能しないと発生に重大な影響を与えるとされている。しかし、東海大矢部博士らとの共同研究で、我々は今年度FA患者の母親に高頻度にALDH2バリアントホモを見出した。他のアイソザイムの発現が胎盤ではどうなのか等、追加実験が必要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
real time PCR法を確立し、生体内で重要と思われる組織細胞のRNAを入手し測定することができた。しかし、まだまだ多数のアイソザイムの測定が残っており、やや遅れているとした。
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今後の研究の推進方策 |
すでに細胞等の入手が完了したので、以後の実験はスムースに進行することが期待できる。siRNAによる検討も、細胞周期のマーカーで進行することが期待される。一方、実際のFA患者と母親のALDH2遺伝子型の研究から、マウスとはかなり違う生理的機能が浮かびあがっている。この点をきちんと解釈できるデータが得られるか、まだ不明である。対応策としては、実際の生体内でのアルデヒドの測定があげられる。今後の検討を要する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由は、本年度の検討で予想外の結果を得たため、研究計画の見直しをしたためである。本研究計画の大きな柱は、ファンコニ貧血患者細胞におけるALDHアイソザイムの網羅的ノックダウンによる検討にある。網羅的ノックダウンを行う細胞として、FANCA遺伝子の欠損患者GM6914を選び、これをFANCAで相補された細胞とペアとし、それぞれをGFPとmcherry遺伝子を発現させ、混合のうえ、MMC感受性を細胞増殖で検討した。予想外に、FANCAの欠損細胞がMMCによる細胞増殖低下がひくく、むしろ相補細胞が増殖をはっきりと低下させた。この結果は、こういった細胞のペアで増殖をリードアウトにsiRNAスクリーニングを行うことが適切でないことを示している。
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次年度使用額の使用計画 |
現在、次善の策として、細胞周期マーカーを導入し、FAの表現型を細胞周期変化として捉えることを試みている。昨年度使用しなかった研究費については、この後、siRNAスクリーニングの消耗品費として主に使用することとなる。
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