研究課題/領域番号 |
26550036
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研究機関 | 国立研究開発法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
今岡 達彦 国立研究開発法人放射線医学総合研究所, 放射線防護研究センター, チームリーダー (40356134)
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研究分担者 |
真下 知士 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80397554)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 放射線発がん / 低線量 / 遺伝子改変ラット |
研究実績の概要 |
遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の保因女性において、マンモグラフィーのような数十mGy程度の診断放射線が乳がんリスクを大きく増加させるという疫学調査の報告が存在するが、その妥当性には議論がある。本研究では、乳腺の放射線発がんモデルとして汎用されるラットに、ヒトで見られるタイプの遺伝子変異を導入したモデルを作製し、放射線関連がんの誘発性とその誘発機構を明らかにして、このような疫学調査の結果が生物学的に妥当なものかどうかを検証する。 本年度は、発がん実験に必要な変異体及び野生型個体の繁殖を行い、順次、放射線照射を行って発がん実験のセットアップを完了した。最も低い線量の群は、使用している照射装置で線量の信頼性が確保できる0.1Gyとした。変異体、野生型ともに2Gy以下では急性の致死等の影響は見られなかった。発がん実験の観察項目には、皮膚上から触知できる腫瘤の記録(週1回)の他に、生検による組織の悪性度の診断を追加し、当初計画よりも腫瘍の診断結果及び検体を早期に得られるよう工夫を加えた。こうして得られた腫瘍の一部について、病理形態及びBrca1遺伝子の状態の解析を前倒しで開始したところ、病理形態的にはがん以外の細胞(間質等)の混入が相当程度見られ、そのためBrca1遺伝子の状態を精度良く解析できないことが判明した。そこで、がん細胞を濃縮する工夫と、Brca1遺伝子の変異を定量的に測定する系が必要であると判断し、本年度はまず変異DNAと野生型DNAの比を定量できるPCR-RFLPの系を作製した。生検診断の途中結果では、変異体で発がんが顕著に早まる傾向は見られていない。その他の成果としては、変異に伴う全身の異常の有無を若齢個体の病理解剖によって探索したが、異常は確認されなかった。ヘテロ接合体同士の交配による産子のタイピングを行ったところ、変異遺伝子のホモ接合体は胎生致死であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の予定であった発がん実験のセットアップをすべて完了し、若齢期の全身の異常の有無、2Gyまでの急性影響を確認した。観察項目に生検診断を追加することで、動物の解剖を待たずに腫瘍の病理診断結果と検体を得ることが可能になり、腫瘍の解析を予定よりも1年前倒しで開始できた。予定を超えた成果として、ホモ接合体の胎生致死を示した。一方、災害等にそなえたバックアップのため系統の凍結保存を行う予定であったが、こちらは少し後ろ倒しになった。総合的に見て、順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、0.1~2Gy照射した発がん実験の腫瘍触診、生検診断等の観察を継続し、発がんへの影響を統計学的に解析する。腫瘍のBrca1遺伝子解析にについては、平成27年度の前倒しの解析によって判明した問題(がん細胞以外の細胞の混入)を解決するため、がん細胞を濃縮したサンプルを採取するためのホルマリン固定パラフィン包埋切片のレーザーマイクロダイセクションとDNA抽出、遺伝子検査の実験系を立ち上げる。この実験系を用いて、変異体に発生した腫瘍におけるBrca1遺伝子のヘテロ接合性を評価する。作製した系統の災害等に備えたバックアップのため、繁殖した個体の一部を用いて系統の凍結保存を行う。また、生検診断の導入によって発がん実験の腫瘍の病理解析を前倒しして途中結果を得ることができたが、作製したBrca1変異体の発がんに関する表現型が期待されたほど顕著でない可能性が判明した。そのため、別のデザインによるモデルの作製について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
系統の凍結保存について、ラットの産子数が想定よりも少なく、必要な匹数を確保するために再繁殖を行わなければならなくなり遅れが生じたほか、研究分担者の異動を受けて研究環境の再セットアップを行う期間が必要になったため。
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次年度使用額の使用計画 |
系統の凍結保存については、再繁殖を行って必要な匹数を確保でき、異動に伴う研究環境セットアップも完了して、必要な研究を実施することが可能になっている。平成27年度末頃には、系統の凍結保存を開始したところである。引き続き、系統の凍結保存に必要な物品購入、輸送等の経費、別のデザインによるモデルの作製を検討するための物品購入等に使用する計画である。
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