研究課題
遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の保因女性において、マンモグラフィーのような数十mGy程度の診断放射線が乳がんリスクを大きく増加させるという疫学調査の報告が存在するが、その妥当性には議論がある。本研究では、乳腺の放射線発がんモデルとして汎用されるラットに、ヒトで見られるタイプの遺伝子変異を導入したモデルを作製し、放射線関連がんの誘発性とその誘発機構を明らかにして、このような疫学調査の結果が生物学的に妥当なものかどうかを検証する。本年度は、昨年度にセットアップした発がん実験の動物の観察を継続し、体重、全身状態の他、皮膚上から触知できる腫瘤の記録と、生検による悪性度の診断、悪性所見の見られた個体の病理解剖を行った。0.1~2Gy照射群で、野生型、変異体ともに、放射線照射によって線量依存的に乳がんが誘発される傾向が見られている。変異体において野生型と比較して乳がんの発生が早まる傾向は見られていない。一部の腫瘍検体から、レーザーマイクロダイセクション法を用いて、がん細胞のみを間質が混入しないように採取し、DNAを抽出し、PCR増幅断片長法による標的遺伝子の状態解析(放射線に起因するヘテロ接合性等の変化の解析)を行ったが、正常組織とがん細胞の間に相違は見られなかった。卵巣では非腫瘍性の病的所見があった。また、本研究で作製した1系統について凍結胚等の凍結保存を行った。以上の結果は、HBOC原因遺伝子にヒトで見られるタイプの変異を導入したラットモデルでは、自然の発がん、放射線誘発がんともに、野生型と変わらないことを示している。本研究ではSprague-Dawley背景系統での7週齢照射によるがん発生を調べたが、異なる週齢、異なる発がん処理、異なる背景系統でのがん発生を調べる必要があると考えられた。
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乳癌基礎研究
巻: 24 ページ: 7-15