研究課題
本研究では有機ヒ素化合物であるジフェニルアルシン酸(DPAA)ばく露による神経症状発症におけるmiRNA発現異常の関与を検証してきた。最終年度である平成27年度は、DPAAにより産生が誘導させるサイトカイン(MCP-1、CXCL1等)の発現抑制をし得るmiRNAであるmiR-181のDPAAによる発現減少を経時的に評価し、DPAAによるラット培養アストロサイトの活性化とmiRNAの発現減少との間にある因果の検証を行った。経時的な発現量解析により、培養アストロサイトにおいてmiR-181の発現は培養時間に応じて発現上昇するがDPAAによりその発現上昇が抑制されていることと発現抑制はDPAAばく露96時間後にようやく顕著になることが明らかとなった。ところが、DPAAによるアストロサイトの活性化におけるmiR-181の関与を検証するためにmiR-181のmimic RNAとinhibitor RNAの効果を、DPAAばく露時の形態変化、細胞増殖、およびサイトカイン産生等を指標として評価したが、特段の効果は見られなかった。この点については様々な角度から評価を行ったが、miR-181への干渉がDPAAと類似の影響を見せることも無く、DPAAによる活性化程度を変化させることも無かった。つまり、DPAAによりmiR-181の発現が抑制されるが、DPAAによるサイトカインの異常産生への道のりにおいてこの経路が決定的に関与しているとは考えがたい。しかしながら、miR-181は脳内で比較的豊富に発現しているmiRNAであり、DPAAによるその発現抑制は今回評価したサイトカイン以外の遺伝子の発現の調節に影響を与える可能性がある。そしてDPAAによるmiRNA発現異常の毒性学的メカニズムの解明も望まれる。そして、DPAAによる脳内サイトカインの異常放出と行動異常についても今後の課題である。
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