タングステン(W)製品の利用の拡大に伴い,土壌および地下水環境中におけるW濃度の増加,ならびに曝露の機会が増加する可能性がある.Wの土壌中における吸着挙動はpHおよび共存するイオンによる影響を受ける.例えば,環境中に放出された単体のWは酸化されてWO4として溶解するため,リン酸(PO4)やモリブデン酸(MoO4)などの陰イオンの存在によって吸着が阻害されることが報告されている.Wの毒性の評価および地下水質汚染に関する議論において,土壌中におけるWの吸着挙動および移動性は重要な知見になると考えられる.本研究では,土壌を構成する主要な層状ケイ酸塩鉱物および酸化物鉱物に対するWの吸着挙動に,PO4およびMoO4が及ぼす影響を明らかにすることを目的とした. 研究の結果,粘土鉱物へのWO4の吸着は,溶液中のPO4あるいはMoO4によって阻害あるいは促進される場合もあれば,粘土鉱物によっては影響を受けない場合もあることが確認された.他の粘土鉱物と比較して,ferrihydriteへのWO4の吸着は,PO4およびMoO4の存在によって吸着が顕著に阻害された.Gibbsiteとgoethiteでは,PO4の存在によってWO4の吸着が阻害されたが,MoO4による阻害はほとんど起こらなかった.BirnessiteではPO4およびMoO4の存在によるWO4の吸着阻害はほとんど起こらなかった.MontmorilloniteではMoO4の存在によってWO4の吸着が促進されることが判明した.
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