研究実績の概要 |
平成27年度は、甲状腺ホルモン(THs)の恒常性機能を評価する上で、より重要度の高い生理学的活性を有する遊離型THs(タンパク非結合型)の分析法(限外ろ過法)開発を試みた。定性・定量には、昨年度確立した高速液体クロマトグラフタンデム質量分析計(LC-MS/MS)のエレクトロスプレーイオン化法のポジティブモードを用いた。ウシ血清を検討試料とし、プロホルモンとして作用するL-thyroxine (T4)および核内受容体(thyroid hormone receptor: TR)に対し活性化を有する3,3’,5-triiodo-L-thyronine (T3)だけでなく、3,3’,5’-triiodo-L-thyronine (rT3)も対象物質とした。遊離型THsの場合、タンパク結合型との分離が不可欠となる。血中輸送タンパクであるthyroxine-binding globulin (TBG)、transthyretin (TTR)、そしてalbuminが54-66kDaの範囲内にあるため、30kDa以下の分離フィルターを有する3種のultrafiltrationデバイス(Centrifree YM-30、Amicon Ultra-0.5、Nanosep Omega)を用いて検討をおこなった。測定値に影響を及ぼすと考えられるpHや温度設定、そして遠心力・時間について綿密な精度チェックを実施した結果、最も良好な値を示したCentrifree YM-30を本手法の限外ろ過デバイスとして選定した。ウシ血清からは遊離型のrT3が検出されなかったため、T4とT3の日内および日間変動を確認したところ12%以下と良好な値が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、甲状腺ホルモン(THs)恒常性機能の評価にきわめて重要な生理学的活性を有する遊離型THs(タンパク非結合型)について、限外ろ過法を用いた分析法を確立した。30kDa以下の分離(血中輸送タンパクとの分離)フィルターを有する3種のultrafiltrationデバイス、(1)先行研究でヒト血清中遊離型THs分析に使用されたCentrifree YM-30、(2)YM-30と同様の膜素材(再生セルロース)を有するAmicon Ultra-0.5、(3)安価で血清中遊離型医薬品分析で実績のあるNanosep Omegaを用いて検討をおこなった。ウシ血清を検討試料とし、L-thyroxine (T4)と 3,3’,5-triiodo-L-thyronine (T3)の定量は、昨年度確立したLC-MS/MS測定法を用いた。その結果、Centrifree YM-30において遠心力1,100 g(1,110; 1,500; 2,000; 3,000; 4,000; 5,000; 10,000 gの7段階を検討)遠心時間30分(10分; 20分; 30分の3段階を検討)、設定温度37℃(25°C; 28°C; 31°C; 34°C; 37°Cの5段階を検討)の条件下で最も良好な値が得られた(pH 7.4-8.7の範囲内による変動は見られなかった)。この条件をもとに日内および日間変動を確認したところ、T4で6.1と7.7% 、T3で3.8と11%となり、遊離型THsの高精度測定法が確立された。現在、他の動物種による分析精度を確認しており順調に進展している。
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