研究課題/領域番号 |
26550052
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
新妻 靖章 名城大学, 農学部, 教授 (00387763)
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研究分担者 |
細田 晃文 名城大学, 農学部, 准教授 (50434618)
大浦 健 名城大学, 農学部, 准教授 (60315851)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 海鳥 / 水銀 / 腸内細菌 / 多環芳香族化合物 / 水銀 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,東アジア諸国から排出される様々な汚染物質の海洋生態系への影響を 高次消費動物である海鳥類を指標生物として,近年,汚染物質の流入が著しいであろう日本海と流入が少ないであろう太平洋沿岸で繁殖する海鳥類の汚染状況を比較し,広域的な汚染物質のモニタリング体制を確立することである。 汚染物質の流入が著しいと予想される日本海側に位置する利尻島と天売島および,汚染物質の流入が少ないと予想される太平洋側に位置する蕪島で繁殖する海鳥計21個体について,重金属濃度を蛍光X線分析により分析した。その結果26種類の重金属元素が検出され,有毒性を示す水銀,鉛,亜鉛において,日本海側より太平洋側で有意に高い濃度を示した。しかし,バナジウムは太平洋側より日本海側で濃度が高い傾向にあり,アジア地域の化石燃料燃焼による影響の可能性を示した。 オオミズナギドリとウトウの糞から腸内細菌のDNAを抽出し,各個体由来のサンプルを変性剤濃度勾配ゲル電気泳動法(DGGE)により,遺伝子を細菌種ごとに分離し,検出された各バンドの塩基配列をDNAシーケンサーにより決定した。その結果,オオミズナギドリの腸内細菌にはカモメ類などの糞中からも検出されるLactobacillus属やCatellicoccus属と高い相同性(99~100%)を示す細菌が優占化し,ウトウの腸内細菌ではオオミズナギドリとは異なりCampylobacter属と100%の相同性を示す細菌種の存在が示唆され,この他にPCBなどの芳香族系化合物を分解代謝すると報告されているRhodococcus属と高い相同性(98%)を示す細菌が検出された。 海鳥における汚染物質の曝露は,各臓器の多環芳香族化合物濃度から評価した。前年度開発した抽出法にて分析した結果,生殖器から最も高濃度で検出され,次いで肺,腎臓の順であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は,東アジア諸国から排出される様々な汚染物質の流入が著しいであろう日本海と流入が少ないであろう太平洋沿岸で繁殖する海鳥類を越境汚染物質のモニタリング種とし,広域的な汚染物質のモニタリング体制を確立することである。そのため,日本沿岸海域を主な採食場として利用する沿岸性の海鳥類をモニタリング種とした。 その結果,重金属については当初の予想に反して,日本海側よりも太平洋側の海鳥について高濃度という結果を得た。特に水銀については,北太平洋の中では日本沿岸で高濃度であることが知られており,黒潮によってアジアから運ばれてくる汚染物質の影響を考慮しなければならないことが明らかとなった。その一方で,バナジウムは太平洋側より日本海側で濃度が高い傾向にあり,アジア諸国の化石燃料燃焼による影響を受けていることも示唆された。バナジウムがアジア地域からの越境汚染マーカーとなる可能性が示された。汚染物質を特異的に分解する腸内細菌の特定と種同定を同時に行うためにPCR-DGGE法による網羅的な解析により,一般的な海鳥に存在する細菌種(Lactobacillus属やCatellicoccus属)だけでなく,PCBなどの芳香族系化合物を分解代謝することができる細菌(Rhodococcus属)が検出された。これらの菌株が有する遺伝子が特定されたことから,これらの細菌を標的とした定量PCRなどによりオオミズナギドリやウトウの腸内細菌量の変化を経時的に解析することも可能である。また,芳香族系塩素化合物の分析では生体組織によって脂肪などの夾雑物の含量が大きく異なるため,前処理工程の手法を検討した。その結果,効果的に夾雑物を除去する手法の開発ができ,ウミネコを用いた生体試料の分析に着手できた。 以上より,各項目の分析はおおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
汚染物質を特異的に分解する腸内細菌の網羅的探索をDGGE法により行い,汚染物質分解に関わる腸内細菌種が検出された。太平洋側で繁殖するウミネコについては水銀濃度が高い傾向にあったため,水銀耐性遺伝子を標的としたプライマー等を設計し,PCR-DGGE法と配列解析および定量PCRによる標的遺伝子の定量等を行い,汚染物質の生体への影響やその分解過程を調べる。 越境汚染マーカーとして重金属の蓄積量を解析するため,太平洋側と日本海側で海鳥類の死体を回収したが,海鳥種により汚染物質の蓄積過程が異なる可能性がある。そのため,日本海側で繁殖するウミネコを利尻島より回収し,蛍光X線分析装置を用いて分析を行い,27年度に引き続き各生体組織中の芳香族系塩素化合物の分析を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度におこなったオオミズナギドリの糞から汚染物質を特異的に分解する腸内細菌の探索をDGGE法により網羅的に解析がおくれ,本年度にオオミズナギドリとウトウについて実施した。しかし,太平洋側で繁殖するウミネコの糞からのDNAの抽出に問題が生じ,解析に必要な消耗品の購入を控えた。
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次年度使用額の使用計画 |
海鳥種によって汚染の状況が異なることがわかりつつあるため,汚染物質の流入が著しい日本海側と非汚染の繁殖地において,同じ種類の海鳥の糞および死体を採集するため旅費として予算を使用する。 汚染物質を特異的に分解する腸内細菌の探索をDGGE法による網羅的な解析と,腸内細菌の水銀耐性遺伝子等を標的としたプライマー設計と塩基配列解析のために必要な消耗品を購入する。
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