研究課題
本研究の目的は,東アジア諸国から排出される様々な汚染物質の海洋生態系への影響を高次消費動物である海鳥類を指標生物として,広域的な汚染物質のモニタリング体制を確立することである。東南アジア海域で越冬するオオミズナギドリについて,伊豆諸島沖で混獲された個体の肝臓および腸内の糞を採集した。取り出した肝臓の水銀濃度を分析した結果,3.249ppm±0.239であった。昨年分析したウミネコ肝臓の水銀濃度(10.7ppm ± 6.5)より,低い値を示した。オオミズナギドリの糞(3個体)からDNAを抽出し,PCR法により腸内細菌の16SrRNA遺伝子のV3-V4領域(大腸菌の16SrRNA遺伝子で341bpから534bpに相当)を増幅させた。このDNAに対して次世代シークエンサー(HiSeq2000)を用いた腸内細菌叢の群集構造解析を行った。その結果,2個体のオオミズナギドリではLactobacillus属やWeissella属といった乳酸菌に相当する塩基配列が半数を占めた。水銀耐性菌の割合はそれぞれ3.48%,12.42%,15.82%であった。肝臓中の水銀濃度は,4.9ppm,2.1ppm,1.4ppmと水銀耐性菌の割合が増えると減少する傾向があった。青森県八戸市蕪島で繁殖するウミネコ(3個体)より,糞とDNAを採集し,同様に腸内細菌叢を分析した。ウミネコからはKlebsiella属というヒトの常在菌やPeptostreptococcus属といった抗生物質耐性菌の配列が存在した。また,水銀耐性菌として報告がされているClostridium属やEnterococcus属の配列が存在し,その割合は42.39%,35.86%,57.18%であった。汚染物質の流入量の違いだけでなく,種ごとあるいは個体ごとで保有する腸内細菌の違いにより,水銀汚染の影響が異なる可能性が示唆された。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 4件)
PLoS ONE
巻: 11 ページ: e0167261
http://dx.doi.org/10.1371/journal.pone.0167261
名城大学総合研究所紀要
巻: 21 ページ: 9-12