研究課題/領域番号 |
26550067
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
森 也寸志 岡山大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (80252899)
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研究分担者 |
登尾 浩助 明治大学, 農学部, 教授 (60311544)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 放射性物質 / 環境保全 / 放射性セシウム / 浸透現象 / 除染技術 |
研究実績の概要 |
東日本大震災の際には原子力発電所の事故により東北地方を含む複数の県に放射性物質が降下した.表土はぎや天地返しが放射性物質の除去に有効とされるが,比較的広い低平地にしか適用できず,傾斜地や森林などは手つかずの状態である.本研究では,下方浸透促進に効果のあった人工マクロポアを使って表層に集積する放射性物質を下方移動させ,固定させることを試みた.さらに,根群域での吸収を防止するために根群域をバイパスする浸透の技術構築を行った. 放射性物質のほとんどは表層に集積しているが,このうち有機物に吸着し土壌の鉱物に固定されず,交換態のままと考えられる放射性セシウムは表層の蓄積の20-30%を占めると言われている.これらは植物に吸収されやすく,また雨水によって洗い流されやすい.人工マクロポア技術によって下方浸透を促し,表層蓄積率の変化という指標で評価すると,約10%の変化が見られ,可動性の1/3-1/2を鉱物の多い土壌深部に誘導・固定することが出来た.室内実験では排水から放射性物質の検出は見られず,農作物からの吸収を軽減する技術として大きな成果が得られたと判断した.室内実験では今回新たに考案した表面被覆型人工マクロポア導入の効果を検討した.対照区では全ての排水が土壌全体から排水されるのに対し,マクロポア区では多くの排水がマクロポアを通じて排水されていた.初期の成果では,従来型でも表面被覆型でも同様の効果が見られることがわかった. 人工マクロポアを用いた放射線量低減技術は,一般に行われている除染技術と比べ,大型機械や廃土処理が必要ないこと,不定形の場所や傾斜地にも適用できること,安価で容易に作成できることなどの利点がある.今回の実験では可動性の放射性物質の約半分を表層から減ずることができた.また,表面被覆型人工マクロポアは,根群域を回避しながら放射性物質を下方移動させ固定できる可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ⅰ.人工マクロポアを使った放射性物質の下方移動促進技術の開発では,人工マクロポアを放射性物質に汚染された圃場に施したところ,表層に集積する放射性物質のうち,2,30%にあたるとされている交換態セシウムの約半分を表層から減ずることができ,当初の目的を達成したから. また,土壌中での放射性物質の拡散を回避する「表面被覆型」人工マクロポアを作成すると室内実験の範囲ではあるが,カリウムの移動がマクロポアからのものが圧倒的に多く,土壌基質部分の移動を回避したことがわかったため.
Ⅱ.また,溶質移動のシミュレーションと構造の最適設計において,二次元浸透シミュレーションによって,表層土壌から根群域下まで効率よく放射性物質を移動させることのできる最適構造を設計し,上の実験を実施できたため
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今後の研究の推進方策 |
研究はほぼ計画通りに進行しているため,基本的にはこのまま研究を実施するつもりである.現地調査は継続し,年二回ほどの現地調査と試験を行う.一方で,より管理された状況下での実験を行うために,現地施設内に苗などを隔離した条件下でポット実験を行い,萌芽的成果を見つつ,環境中への拡散のリスクを軽減する形での研究を実施する計画である.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が計画よりは少し進んでおり,室内実験後にポット栽培をする計画が立っており,進行中である.その際に,水・物質移動量の計測と現場のポット実験における放射性物質のイメージング(撮影)も同時に行う方が,より信頼性の高い効果の確認ができると判断をした.このため,消耗品購入に充てる額を次年度使用に回した.
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次年度使用額の使用計画 |
現場のポット栽培は春から夏にかけて行われるため,収穫までの所で水・物質移動に関わる各種パラメータを計測するために,年度の早い段階で,実験器具の購入に充てる計画である.
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