東日本大震災によって,福島第一原子力発電所で事故が発生し,放射性物質の漏出と拡散が起こった.事故から数年経った現在では,環境中に放出された放射性物質が土壌中を降下し,根から植物に吸収される事が危惧されている.土壌に降下した放射性セシウムは粘土鉱物に強く吸着されているが,有機物含量の多い土壌では,粘土鉱物を多く含む土壌に比べて放射性セシウムとの吸着が弱く,植物へ吸収されやすくなる懸念がある.根群域にある放射性セシウムは農作物に吸収される可能性があるため,もし,迅速に根群域を超えて下方に浸透させ,鉱物層に吸着させられるのであれば有利である.そこで,本研究では有機質土壌であるピートモスを植栽とするブルーベリーを対象とし,人工マクロポアを使って表層に存在する放射性セシウムを根群域下まで輸送し,植物による吸収を回避する可能性を検証した. 人工マクロポアの有無と硫酸アンモニウム,カリウムという施肥の違いを用意して,人工マクロポアによる放射性セシウムの根群域下への移動と鉱物層での固定を試みたところ,硫酸アンモニウムには土壌からセシウムを溶出させる効果があり,他方で植物への吸収を促進させてしまう課題があった.また,人工マクロポアは硫酸アンモニウムと組み合わせたときに下方浸透が促進されるとわかった.一方カリウムはもっぱら植物体への吸収抑制に効果を示した.すなわち,放射性セシウムの効果的な移動には,溶出・移動・吸収抑制という素過程が必要であることがわかり,研究の次の展開のための成果と課題が得られた.しかしながら,下方浸透距離についてはいまだ十分といえなかったため,今後は硫酸アンモニウムとカリウムの同時施用など組み合わせを考えたうえでの効果の検討を図りたい.
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