研究実績の概要 |
近年、レアアース資源の安定供給策は国家規模で重要視されており、我が国独自の希土類回収技術の開発は重要である。本研究はイオン液体系において「抽出分離技術」と「電解析出技術」を連携させることにより、廃棄物の減容化と省エネルギー化に優れた希土類回収プロセスの開発を目的とする。ここで、実廃棄物:ボイスコイルモーターを対象として「抽出-電解プロセス」の確立に挑戦することが新規の開発要素である。 平成26年度は希土類種(Nd,Dy)の選択的抽出及び遷移金属種(Fe)との相互分離に関する研究を主体的に実施した。 1.イオン液体系における希土類種(Nd,Dy)の選択的抽出に関する研究 Nd,Dyの選択的抽出条件を明らかにするため、水相として利用するアミド酸の酸濃度依存性を評価した。その結果、アミド酸濃度が高く、低pH領域(0<pH<1)においてNd,Dyの抽出挙動に相違が見られることが明らかとなった。また、Nd,Dyに対する抽出率、分離係数を評価した結果、イオン液体系抽出系で希土類種の選択的抽出に有効な溶媒和抽出剤として、TBP,TODGAを利用できることが判明した。さらに、イオン液体系抽出において、溶媒和抽出剤のイオン液体に対する高溶解条件及び抽出剤の分配挙動も明らかになった。 2.希土類種(Nd,Dy)と遷移金属種(Fe)との相互分離に関する研究 Nd-Fe-B磁石成分中のNd,Dy及びFeとの相互分離については、pH依存性を考慮に入れた各金属種の抽出機構の相違を活用した。特にpH<0.5の条件下において、Nd,Dyの抽出率:75%以上を維持した上で、Feに対する抽出率:5%以下となり、選択的分離が可能であることを明らかにした。また、抽出機構解析から、本抽出挙動はNd3+,Dy3+及びFe2+に対する静電相互作用の相違を利用した溶媒和抽出剤の機能性に基づくものであることも明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は「Nd,Dy錯形成状態の分光学的解析及び抽出―電析機構解明」に向けて、以下の研究を計画している。 1.希土類(Nd,Dy)錯体の分光学的解析及び溶媒和抽出機構の解明 遷移金属類の錯形成状態評価に関して、適用例の多い配位子場理論を活用し、本研究では分光化学系列に視点を置き、金属と配位子の相互作用を分光学的手法により評価する。希土類種(Nd,Dy)の溶媒和抽出ではイオン液体系に抽出される錯形成状態を把握することが重要であり、紫外可視分光法により希土類種(Nd,Dy)と溶媒和抽出剤(TBP,TODGA)の間で形成される錯形成状態を分光学的に解析することを計画している。また、溶媒和抽出機構の解明では、抽出平衡式を確立した上で、抽出曲線のslope解析を計画している。具体的には、イオン液体系抽出平衡において、抽出剤濃度、アニオン濃度を関数として、得られた抽出曲線のlogD(分配比)-logC(抽出剤濃度もしくはアニオン濃度)解析から化学量論係数の決定を計画している。 2.イオン液体電析に向けた希土類種(Nd,Dy)の還元/拡散挙動解析 イオン液体電析を行うため、希土類種(Nd,Dy)の還元挙動及び拡散挙動の解析には電気化学的手法を活用する。希土類種は電気化学的に極めて卑な元素種であり、通常のボルタンメトリ法では解析が困難になることが予測されるため、SWV(square wave voltammery)等の方形波手法を用いるだけでなく、半積分・半微分解析法を適用していき、イオン液体系で溶媒和抽出剤:TBP,TODGAと錯形成した希土類種(Nd,Dy)の拡散挙動を評価することを計画している。また、拡散係数の温度依存性から電解に関与する希土類錯体:[Nd(TBP)3(TFSA)3],[Nd(TODGA)2]3+の拡散に伴う活性化エネルギーを詳細に評価することを計画している。
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