研究実績の概要 |
希土類資源の安定供給策は国家規模で重視されており、我が国独自の希土類回収技術の開発は重要である。本研究はイオン液体系において「抽出分離技術」と「電解析出技術」を連携させることにより、廃棄物の減容化と省エネルギー化に優れた希土類回収プロセスの開発を目的とする。ここで、実廃棄物:ボイスコイルモーターを対象として「抽出-電解プロセス」の確立に挑戦することが新規の開発要素である。 平成27年度はNd,Dy錯形成状態の分光学的解析及び抽出-電解機構解明に関する研究を主体的に実施した。 1.希土類錯体の分光学的解析及び溶媒和抽出機構の解明 遷移金属類の錯形成状態を把握できる配位子場理論を活用して、本研究では分光学的系列から金属と配位子の相互作用を紫外可視分光法により評価した。希土類種の溶媒和抽出ではイオン液体系で抽出される錯形成状態を把握することが重要であり、希土類種(Nd,Dy)と抽出剤(TBP,TODGA)の錯形成状態を分光学的観点から評価した。また、希土類種の溶媒和抽出機構の解明では、抽出曲線のslope analysisから化学量論係数を算出し、抽出平衡式を明らかにした。 2.イオン液体電析に向けた希土類種の還元/拡散挙動解析 「イオン液体電析」を実現するため希土類種の還元挙動及び拡散挙動の解析には電気化学的手法を活用した。ボルタンメトリ法からイオン液体系で溶媒和抽出剤(TBP,TODGA)と希土類種:Ndから構成される錯体種([Nd(TBP)3(TFSA)3], [Nd(TODGA)3]3+)の希土類金属への還元過程は一段階の不可逆反応過程で進行することが判明した。また、上記錯体種の拡散係数は電位-電流曲線の半積分法・半微分法から評価した。その結果、拡散係数はイオン液体系で形成される希土類アミド錯体([Nd(TFSA)5]2-)よりも若干低く、希土類イオン種と抽出剤は強固な配位結合を形成しており、電析過程では希土類アミド錯体よりも高い過電圧が必要であることが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は「実廃棄物:Nd-Fe-B磁石からの希土類抽出-電解プロセスの適用性検討」に向けて、以下の研究を計画している。 1.希土類種(Nd,Dy)に対する抽出-電解技術の確立 平成27年度までの研究成果をプロセス技術に反映するため、「抽出-電解技術」を中心的に遂行する。希土類種を選択的に抽出した後、還元挙動解析から得られた電位-電流曲線に基づいて過電圧を決定し、Nd,Dyの各抽出系におけるイオン液体電析を実施する。得られた電析物はSEMで表面観察を行い、EDXにより元素分析を実施する。また、電析物中の酸化物形成状態はXPSにより評価する。さらには酸化物形成が少ない電解条件を探索していき、より優れた抽出-電解プロセス技術の開発を目指す。 2.実廃棄物:Nd-Fe-B磁石を対象とした抽出-電解プロセスの適用性評価 項目1に掲げた希土類種だけではなく、実際のNd-Fe-B磁石を利用した一連のプロセスにより、鉄元素及び希土類種の抽出分離試験を実施する。本試験において、鉄元素の抽出分離率、残留した鉄元素の回収に必要な電解エネルギー、選択的抽出後の希土類種に対する電解エネルギーを評価する。鉄元素の抽出分離率をできる限り高くすることで、後続の電解析出に要するエネルギーを小さくし、省エネルギー型プロセス技術の確立を目指す。上記のエネルギー見積もりに加えて、抽出-電解プロセスで適用するイオン液体種を選定し、比較的安価なイオン液体の適用可能性を評価する。最終的には抽出-電解プロセスの前処理工程を含めた全プロセスのコスト評価を検討する。
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