殻が割れていない卵が常温で腐りにくいのは,卵殻おとび卵殻膜が中身の腐敗を守る機能を有するためであると仮説を立て,その機能を応用する目的で,卵以外の別の食物の劣化を抑制する作用に応用できる研究を行った.具体的には,果肉切片上のチロシナーゼ由来の着色劣化が速いアボカドの作用を卵殻膜が抑制できると予想した各種試験を行った.はじめに,1×1×0.5 cm角にカットしたアボカド果肉片表面を卵殻から取り出した卵殻膜を覆い,着色傾向における経時変化を観測したところ,無処理のアボカド切片に比べて着色が抑制された.次に,パッチする卵殻膜の厚みは保護対象の食品の色彩や食感に違和感を与えるため,卵殻の鈍端部にある気室部分を起点として,膜全体を二層に分離させると,着色抑制作用を維持するとともに,視覚・触感で認識されない膜に加工できた.この膜はアボカド同様に調理後の切片が着色するごぼうやリンゴなどに対しても,同様の着色変化を目視で観測した.一連のパッチテストで生じた現象はチロシナーゼ阻害活性評価を用いて,卵殻膜からの抽出成分において阻害活性が生じていることに由来していることを明らかにした. この他に,卵殻膜の物理的特性として吸着能評価試験を行い,メラニン・ドーパクロム等の有色成分を卵殻膜が吸着する現象を紫外可視分光分析によって明らかにした.その結果,卵殻膜は,含有する成分による酵素的な着色抑制と,対象となる食品に存在する着色に用いられる基質および生成物のメラニンを吸着することによって,見た目の着色抑制を示すことが明らかとなった.これによって,卵殻膜の食品添加物としての新しい用途が見出された.
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