研究課題/領域番号 |
26550080
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山室 真澄 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (80344208)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イソシアネート / LC/MS/MS / PTR-MS / 発生源 |
研究実績の概要 |
本研究では建築・土木関係で多量に使われるようになった合成樹脂材料(塗料・接着剤・充填材・断熱材・防音材・シーリング材・軽量盛土など)から、日常的な加温・日射・摩擦などによって発生する可能性がある有害揮発性有機化合物のうち、特にイソシアネートについて、現場サンプルの分析と実験室実験により検討することを目的としている。 イソシアネートは揮発性ないし半揮発性で、反応消失しやすく、また重く吸引しにくいため、ガスクロマトグラフィーを用いる場合に普通の手順では検出困難である。誘導化した上での高速液体クロマトグラフ法が濃度測定には最も適している。日本では労働安全衛生法に基づく作業環境測定でTDIを吸光光度法で測定しているが、その他の形態のイソシアネートを含めた分析法の公定法はない。そこで本研究ではISO採用が検討されているシグマ社の方法を用いてLC/MS/MSによる分析法を確立することを目的とした。 本研究ではさらに、発生確率が高い条件において、Proton Transfer Reaction Mass Spectrometry(PTR-MS)をレンタルして実態解明を行うこととした。PTR-MSではソフトな陽子付着反応を利用するため、化合物が反応チューブ内で壊されることなく検出できる。また、ガス・クロマトグラムを使用することなく、揮発性化合物を選択的に定量できる。さらに、比較的高い時間分解能で測定できることから、濃度変動が激しい発生源近くで観測可能である。 日常の現場でのイソシアネート発生状況については、化学テープ方式を採用した有毒ガス検知器により発生状況を追跡している市民団体からの情報を取得し、発生源として疑われる物質の特定を図る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度から、液体クロマトグラフ法の移動相プログラムを変更し、測定後半で水:アセトニトリルの比率についてアセトニトリル側を上げた。これによって、シグマ社混合標準溶液に含まれるイソシアネート9種中ジフェニルメタンジイソシアネート・イソホロンジイソシアネートが測れるようになり、イソシアン酸を除く8種が測れるようになった。あわせて、前処理の震とう器・遠心分離機・濃縮装置を更新したことによって、分析精度が向上した。 日常環境で発生する可能性がある物質として、イソシアネートの含有が表記された接着剤について、ASSET EZ4-NCO Dry Samplerを用いて検出を試みた。また市民団体からイソシアネートの発生が疑われるとの情報提供があった柔軟剤については、原液を用いて検出を試みた。いずれについてもイソシアネート類を検出することはできなかったが、発生していないのか、サンプリングや誘導体化に問題があるのかについては特定できなかった。ポリウレタンを加熱して変色+縮小した試料からもイソシアネートは検出されなかった。PTR-MSについては最初にレンタルした際に標準試薬を分析した。二度目にサンプルを分析する際に、装置が故障したため、分析を行うことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に当たる平成28年度は、今年度に骨格が完成したLC/MS/MSを用いた分析法によって、市販されている塗料や柔軟剤を中心に、イソシアネートの検出を試みる。特に柔軟剤については、洗濯や乾燥など、実生活の作業状況に近似した環境を実験装置で再現し、その状況での気体採取を試みる。市販の接着剤については8種が測れるようになった移動相設定でLC/MS/MS測定を行うとともに、誘導化について改良したサンプリングも行う。 ポリウレタンからのイソシアネート発生条件の特定については、PTR-MSが使用できる状態になり次第実験を行う。装置までの導入までにイソシアネートが変質する可能性があるので、導入方法の検討を先行させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
Proton Transfer Reaction Mass Spectrometry(PTR-MS)をレンタルして実態解明を行う予定であったが、使用予定機器が故障し代替機が無かったので、レンタル代と実験時に使用する予定だった標準試薬などの消耗品代を次年度に繰り越すこととした。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度に当たる平成28年度は、使用予定機器が修理され次第、最低2回はPTR-MSを使用した実験を行う。
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