原生生物の一種であるハリタイヨウチュウは重金属などの環境汚染物質に対してきわめて鋭敏な反応(軸足の短縮反応)を示すので、この生物を用いた水質のモニタリングが可能である。しかし、なぜこの生物が環境汚染物質に鋭敏に反応するのか、ということに関する生物学的な基礎研究はまったく行われていない。そこで、1)さまざまな化学物質に対するハリタイヨウチュウの反応を網羅的に調べ、2)細胞外からの化学物質刺激による軸足短縮の機構を解析し、この反応の生物学的意味について考察する。これにより、この生物を用いた水質検査法の妥当性と適用限界を知ることを本研究の目的とした。 ハリタイヨウチュウは、軸足の先端に付着した餌虫を、軸足を収縮させることにより細胞体の近傍にまで引き寄せ捕食する。この際の軸足収縮のしくみは、エサの接触刺激により機械受容Ca2+チャンネルが開き、その結果細胞外から流入したCa2+により微小管が脱重合すると考えられている。有害物質、たとえばHg2+によっても、この経路が活性化されて、軸足の短縮が生じ、それによって基底面からの離脱が生じていることがわかった。すなわち、機械受容Ca2+チャネルの活性化により細胞外から流入したCa2+により、軸足内微小管の脱重合と軸足の短縮が生じると考えられる。Hg2+などを含む有害物質による軸足収縮も、同様の機構が介在している可能性がある。これまでの予備的実験から、Hg2+による軸足の収縮現象には外液のCa2+が必要で、機械受容Ca2+チャネルの阻害剤であるGd3+により阻害されることがわかっている。このことは、他の有害物質による軸足短縮も同様の機序で生じている可能性があるので、重金属類と一部の有機化合物に反応することから同様の実験を行い、この仕組みがすべての化学物質について成り立つのかについて検討した。
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