研究課題
東北地方太平洋沖地震・東日本大震災がもたらした化学物質による海洋生態系への影響のアセスメントは重要な課題である。本申請課題では、震災によって深刻な重油汚染が生じた気仙沼の海洋生態系に着目し、重油由来で毒性の高い多環芳香族炭化水素(PAHs)が海洋生物にどのような集団遺伝学的な影響を与えたのか?、つまり、PAHs耐性をもたらしたのか?、という点について明らかにする。本年度は、まずターゲットとなる生物を確保するため、宮城県気仙沼湾において生物試料の採取を2回実施した。すなわち、2014年5月にカキ50検体を、11月にアイナメ43検体をそれぞれ現地で採取した。カキについては、中腸腺と生殖腺、アイナメについては、肝臓と生殖腺、血液(血漿)をそれぞれ分取し、液体窒素(-170℃)の入った専用容器に入れて凍結保存した。これらの試料は、遺伝子解析・タンパク解析に使用する予定である。また、化学物質の分析用に、カキの中腸腺と生殖腺を取り除いた後の残りと、アイナメの筋肉と卵を現地の冷凍庫(-20℃)で冷凍保存した。フィールドから実験室に戻ってから、試料を愛媛大学沿岸環境科学研究センターの生物試料バンク(es-BANK)の冷凍室(-25℃)、超低温冷凍庫(-80℃)に入れて保存した。
3: やや遅れている
元々、採取した試料を凍結粉砕し、DNAおよびRNAを抽出する予定であった。しかし、科研費・基盤研究(S)の分担で実施しているin vivo実験(動物実験)に対する労力が予想よりも大きくなってしまったため、本来予定の実験を実施することが難しくなった。
標的遺伝子のcDNAクローニングをおこなう。まず凍結粉砕サンプルからフェノール・クロロホルム法を用いて高純度のRNAを抽出する。次に、NCBIやDDBJのデータベース上にあるモデル生物のAHR等の配列を確認し、それらの保存性の高い部分を基にプライマーを作製した後、目的の遺伝子をRT-PCR法・RACE法によってクローニングする。得られた配列を既知の生物のものと比較しながら相同性を明らかにする。とくに、汚染地域と非汚染地域の生物とで、配列間の違いの有無と頻度をチェックする。この差異のある部分(遺伝子多型)が、その生物における化学物質(PAH)に対する感受性、つまり耐性に関与していると考えられる。 また、抽出したRNAを用い、標的遺伝子のmRNA発現量を逆転写-リアルタイムPCR法により測定する。同一種を多検体分析し、標的遺伝子の多型・発現量の地理的分布を明らかにする。予想される結果としては、震災による汚染が続く海域に生息する生物は、耐性型の遺伝子を持っている頻度が非汚染域の生物よりも有意に高いこと、あるいは標的遺伝子の発現量が高いことが挙げられる。次に、得られた標的遺伝子配列を基に、in vitroでタンパク質を発現させ、それらの発現タンパクと化学物質の結合親和性を評価することで、変異型がもたらす耐性メカニズムの解明を試みる。まずAHRを含む発現プラスミドをTranscription and Translation(TNT)系に組み込み、放射性同位元素でラベル化させたもの・させてないものの状態でタンパク質を発現させる。非ラベル化発現タンパク質と3Hでラベルした基質とを培養し、ショ糖密度勾配法により分画した各フラクションの放射線強度を測定することで、野生型・変異型タンパクの結合親和性の差を明らかにする。
すべて 2015 2014
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件) 図書 (1件)
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