当初計画していた挿穂実験が洪水による実験区の流去,追加して準備した挿穂の生育不良が重なって実施困難になった。そのため,最終年度は種子由来個体の調整と自然定着個体のモニタリングに焦点を合わせた。2016年秋に鬼怒川河川敷で種子を採取し,所定の処理後,2017年3月から温室内で発芽させた。発芽個体は,鬼怒川河川敷で新たに設定した試験区(森林,低木林,草地)に導入した。種子由来個体は挿穂由来個体に比べて成長が遅く,現在まで試験区間での差異が明瞭ではない。この導入個体は今後もモニタリングを継続する。自然定着個体のモニタリングでは,森林,低木林,ススキ草地における成長パターンの変化が種間で異なった。クズは森林及び低木林(林内に自然分布する個体はなく,実際は樹冠で覆われた道沿い)ではシュートがあまり発達せず細く短いのに対して,ススキ草地では太く長いシュートを形成する傾向を示した。フジは草地でシュートがよく発達し,森林,低木林での発達の低下も顕著でなかった。スイカズラはフジと類似する一方,地這シュートが森林,低木林でよく発達する傾向を示した。ツルウメモドキは草地,低木林でシュートが発達し,森林ではあまり発達しなかった。 研究期間全体を通じ,宿主となる植生の構造とツル植物によるその利用様式の解析を進めた。対象ツル植物が支持対象とする植物を構成要素とした植生の構造,登攀シュートの発生位置から支持対象となる植物までの距離,登攀シュートが支持対象となる植物へ取り付く高さ,登攀シュートの成長パターンを解析した結果,登攀の初期段階では宿主となる植生の利用様式が種間で異なる傾向が示された。通常,繁茂したツル植物は宿主となる植生と複雑に絡み合うために対象を区別した管理や繁茂しやすい植生の推定はできない。一方,本研究で示された初期登攀過程の種間差を活用すれば,精密な予防的管理が実現できることが示唆された。
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