研究課題/領域番号 |
26550089
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
佐藤 哲也 九州大学, 生体防御医学研究所, 助教 (00457425)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 生物多様性 / 環境DNA / 環境保全 / 次世代シーケンサー / ユニバーサルプライマー |
研究実績の概要 |
湖沼や河川では、生物の排泄物などから生じたと考えられるDNAが検出される。このようなDNAは「環境DNA」と呼ばれ、環境中に生息する生物の種類を同定するために利用できる。しかし、現在の方法では生物種に特異的なプライマー配列を使用しているため、限定された生物種しか同定できない。また、環境DNAは多くの場合損傷しており、期待される断片長は100-200 bpの範囲である。そのため、断片長600 bpを標的とするDNAバーコーディング用プライマーでは環境DNAを増幅できない場合が多い。そこで本研究では、短いDNA断片を増幅して多種多様な生物種を網羅的に調べることができるユニバーサルプライマー配列を設計して、環境中に生息する多種多様な生物種を同定する新規手法の開発を目指す。
本年度は、公共データベースから遺伝子配列データを入手した後、ユニバーサルプライマー配列の設計と、コンピュータ上でのテストを行った。まず公共データベースに登録されている魚類のミトコンドリアDNA配列を取得した。増幅対象のDNA断片長を100 bpに設定して、取得したDNA配列から保存領域と非保存領域から構成される複数のプライマー配列の候補を取得した。プライマーの設計に際して、全ての生物種で共通な保存領域に注目するのではなく、一部の生物種集団で共通した保存領域に注目することにより、これまでに報告がないユニークな候補配列の設計を可能にした。得られたプライマー候補配列から多種多様な生物種が同定できるか否かを確認するために、コンピュータ上でのテストを実施した。その結果、種分類に必要な領域が増幅可能であることが検証でき、ユニバーサルプライマー配列の設計に成功したことを確認した。また、DNA保存領域を容易に確認できるように、複数の生物種の配列を可視化するためのウェブサーバ「GenomeCons」を構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究では、環境DNAから多種多様な生物種を同定するために、ユニバーサルプライマー配列の設計と、コンピュータ上によるテスト(in silicoテスト)を行うことであった。複数のユニバーサルプライマーを同時に用いた結果、プライマーで増幅可能な領域を組み合わせることで、多種多様な生物種を同定することが可能となった。さらに、設計したプライマー配列は、既知DNA配列から擬似環境DNA配列をランダムに生成させるin silicoテストにおいても優秀な成績をおさめたことから、本年度の計画内容を達成し「概ね順調に進展している」とした。また、複数の生物種の配列を可視化するためのウェブサーバ「GenomeCons」を構築したことで、プライマー配列の設計を円滑に行うことができ、本年度の研究を更に推し進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度度に設計したプライマー配列の性能を評価するために、試験管内でのテスト(in vitroテスト)、および野外人工池から採取した環境水サンプルでのテスト(in situテスト)を実施する。その後、全てのテストに合格したプライマー配列の有用性を確認するために、次世代シーケンサーで大規模な解析を行うことで、ため池などに生息する多種多様な生物種の同定を試みる。また本年度では、ユニバーサルプライマー配列の設計は、魚類のミトコンドリアDNA配列に対してのみ行い、原生生物や植物のDNA配列に対してはまだ行っていない。さらに多種多様な生物種を同定できるように、さらなるプライマー配列の設計を試みる。最終的に、本研究で得られた結果をとりまとめ、成果の発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度配分額のうちおよそ50千円が次年度繰越となった。その理由は、学会での成果発表を延期したためである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、この繰越金を加えた額で、次世代シーケンサーによる配列決定用試薬の購入や研究打ち合わせのための旅費に使用する計画である。
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