湖沼や河川では、生物の排泄物などから生じたと考えられるDNAが検出される。このようなDNAは「環境DNA」と呼ばれ、環境中に生息する生物の種類を同定するために利用できる。しかし、現在の方法では生物種に特異的なプライマー配列を使用しているため、限定された生物種しか同定できない。また、環境DNAは多くの場合損傷しており、期待される断片長は100-200 bpの範囲である。そのため、断片長600 bpを標的とするDNAバーコーディング用プライマーでは環境DNAを増幅できない場合が多い。そこで本研究では、短いDNA断片を増幅して多種多様な生物種を網羅的に調べることができるユニバーサルプライマー配列を設計して、環境中に生息する多種多様な生物種を同定する新規手法の開発を目指した。
最終年度では、公共データベースから原生生物及び脊椎動物の遺伝子配列データを入手した後、ユニバーサルプライマー配列の設計と、コンピュータ上でのテストを行った。昨年度では、魚類のミトコンドリアDNA配列から生物種が特定できるユニバーサルプライマー配列を設計した。最終年度でも同様な手法により、これまでに報告がないユニークなプライマー候補配列を得た。これら候補配列から多種多様な生物種が同定できるか否かを確認するために、コンピュータ上でのテストを実施した。その結果、種分類に必要な領域が増幅可能であることが検証でき、ユニバーサルプライマー配列の設計に成功したことを確認した。また、設計したプライマー配列の生物学的機能の解釈を支援するウェブサーバ「ChromContact」を構築した。
|