リュウキュウアユが生息する奄美大島では、個体数の急激な減少により、絶滅が危惧されている。本亜種を衰退に導く生態学的メカニズムの概要は明らかにされつつあるが、科学的な知見が行政施策に反映される機会は少なく、個体群の大幅な回復には至っていない。 今年度は、リュウキュウアユの主要生息河川である役勝川の上流と中流にそれぞれ調査地点を1か所ずつ設け、水質と藻類生産力を測定した。その結果、栄養塩濃度(硝酸態窒素およびオルトリン酸態リン濃度)は、中流よりも上流域で高くなっていた。また、上流および中流域の調 査地点において付着藻類と河川水をそれぞれ採集し、それらを持ち帰って、各地点で採取した付着藻類の一定量を上流および中流で採水した河川水にそれぞれ接種して培養した結果、6日後の現存量は、上・中流域で採取した付着藻類共に、中流域よりも上流域の河川水で 培養した場合に高くなっていた。役勝川では、内地の一般的な河川とは異なり、中流域よりも上流域で栄養塩濃度が高く、潜在的な藻類生産力も高いことが示唆された。役勝川 の栄養塩類の供給源として、上流の森林から流れ込みが重要であると考えられる。また、下流側においては、湿地の代替生息環境としての水田の喪失ならびにサトウキビ畑への転換が、栄養塩類の河川供給を阻害している可能性が考えられた。 これまでに本研究において、アンケート調査等を通して、観光資源としてリュウキュウアユに潜在する経済価値を評価する試みを並行して実践してきた。そこからは、生物多様性の保全と島嶼振興の両立について、費用対効果の側面から最適化を目指すアプローチには適用上の限界があることが示唆された。
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