研究課題/領域番号 |
26550101
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
遠藤 崇浩 大阪府立大学, 現代システム科学域, 准教授 (50414032)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 地下水 / コモンズ / 資源管理 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、かつて輪中地帯に存在した株井戸制度を再検討し、そこから現在の地下水管理への教訓を引き出すことである。株井戸は東海地方の濃尾平野南部にかつて存在していた慣行的な地下水管理制度である。それは井戸数の制限と井戸採掘者の金銭支払いという二つの柱からなる。 株井戸は1930~60年代に人文地理学・歴史学の分野でごくわずかに紹介されたにすぎず、しかもその政策的な意義は全く検討されなかった。他方、本研究は株井戸の構造が地下水税および許可証取引制度に合致していることに着眼し、政策研究という全く新しい視点から分析を再構築する。本研究の学術的な特色は、人文地理学、歴史学、そして環境経済学という広範囲な学問分野の知見を駆使し、重要な政策モデルになる可能性を秘めながら、今ではほとんど省みられることのない株井戸を再評価する点にある。 本年度は主に一次史料の収集と聞き取り調査を行った。一次史料に関しては岐阜県立歴史資料館の『棚橋健二家文書』、立教大学地方文書『西松家文書』を中心に収集を行った。とりわけ当時の村の出納簿である立合輪賦帳、入用帳を中心に写真撮影を行い、それらの史料の多くに井戸関連の記載があることを見出した。また聞き取り調査について輪之内町(旧福束輪中)にて過去の地下水利用を調査した他、岐阜女子大学、麗澤大学、総合地球環境学研究所等で輪中地域の近世史史料の所在地、同史料の特徴などについて関係者と情報交換を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は株井戸に関する一次史料・二次史料の収集を研究の中心においた。まず二次史料についていえば、1930年代から2010年代までの株井戸に関する学術論文を多数入手し、その内容を分析した。その結果、改めて株井戸の研究が1960年代でほぼ終了していること、歴史研究に偏り制度分析が欠けていることが認識された。 次に一次史料についていえば、株井戸に関する資料は岐阜県歴史資料館に数多く保存されているが、調査の結果、それ以外にも数多くの資料館に分散していることが判明した。具体的には立教大学図書館の地方文書には福束輪中の庄屋であった西松家の文書が残されており、それは直接的に株井戸に関する史料ではないが、井戸に関する記載が多数含まれていることが判明した。西松家文書はこれまで歴史人口学の分野で注目されてきたが、株井戸という全く異なるテーマに関しても非常に有用性の高い史料である可能性が出てきた。また同庄屋が記した日記が立教大学や大垣市立図書館に残されており、こちらも株井戸の分析に重要な史料であることが判明するなど、当初予想しなかった史料群の存在を明らかにすることができた。 また今後の研究計画とも関連するが、史料の中でも特に入用帳(村の出納簿)に井戸のデータが多数含まれていることが判明した。入用帳を用いた株井戸の研究は上記の先行研究サーベイでも皆無であり、これまでとは異なる研究を推進できる可能性が出てきた。 もちろん一次史料はこの他にも多数存在している可能性があり、全てを入手したとは言い切れない。来年度も引き続き一次史料の入手に尽力するが、史料のありかを把握できたという意味でおおむね順調に進展していると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画として二つのアプローチを想定している。一つは財政書類の分析である。福束輪中内のいくつかの村には入用帳が残されている。入用帳とは村の出納簿であり一年間の支出明細が記されている。例えば岐阜県歴史資料館所蔵の棚橋家文書には寛永から明治にかけての入用帳が残されており、中には井戸関連の記載が散見される。 入用帳が各村の出納簿であるのに対し、井戸割賦帳はいくつかの村が参加して作った井戸組合の出納簿である。上記棚橋家文書にはいくつかの井戸割賦帳が残されている。今後は同じ年に作成された入用帳と井戸割賦帳を照合することで二つの出納簿の関係を明らかにする。またそこに散見される数値データを活用し、井戸関連支出の経年変化、その変化の理由、井戸の管理体制などを明らかにしていく。またまだ未探査だが株井戸があったとされる高須輪中、下笠輪中についても同様の調査を行う。 もう一つのアプローチは日記の分析である。立教大学および大垣市立図書館所蔵の西松家日記は福束輪中西条村の当時の様子を知る上で貴重な情報源である。本来は公開を目的とせずに記述されるものであるため、その情報の信頼性は高いと判断できる。この日記には天候データの他に、井戸関連の記載が多数含まれている。この日記の記述と、先に述べた入用帳内井戸関連支出の対応関係を考察することで、一年のうちどの時期にどのような目的で井戸を利用したのかといった当時の井戸利用の実情、だれがどのように井戸を管理していたのかといった管理制度の詳細を可能な限り復元し、住民自治の形で井戸管理が可能になった要素を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、株井戸に関する一次史料が予想以上に多かったことが挙げられる。一次史料が大量にあるため一度に写真撮影する枚数も多く、従って読解に時間を要した。その期間、出張などの出費が抑制されたために次年度使用額が生じるに至った。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は史料の多さを見越して計画的な出張および写真撮影を行うことで効率的な資金活用に努める。また必要に応じて謝金の形で読解を外部発注することで計画的な執行を進める。
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