実物体の仮想的な編集を可能にする没入型の形状モデリングシステムの構成・仕様を決定し,そのプロトタイプシステムを開発した.いくつかの工業製品を対象としたケーススタディを実施し,ビデオシースルータイプのディスプレイを通して見た実製品の形状を本システムによって変更し,現実空間の中で製品のリアルさを維持したまま様々なデザインを検討できることを確認した. しかし,本プロトタイプシステムでは,視点の移動やユーザの入力操作に対する応答の遅延から,対象製品の形状を対話的に編集しているという感覚は得られなかった.これは,カメラ映像の全てのフレームに対して画像変換処理をしていることが原因の一つと考えられる.この問題に対しては,変換元となる入力画像を毎フレーム更新するのではなく,複数フレーム毎に更新する,あるいは視点の移動速度に応じて処理するフレーム数を増減させるなど,スムースな表示を実現するためのアルゴリズムの改良が必要である. また,本システムでは実際の入力画像には映っていない背景部分の補完に,ユーザがあらかじめ指定しておいた画像を用いるため,ディスプレイに表示される製品像が不自然になるという現象も見られた.この問題に対しては,隠消現実(Diminished Reality)の技術を用いるなど,新しい補完機能を導入する必要がある. 今後取り組むべき課題としては,アルゴリズムの改良による表示の高速化,3Dポインティングデバイスやジェスチャ入力を用いたより直感的な形状編集機能の実装,本システムを前提とした新しいデザインプロセスの提案などが挙げられる.
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