本研究は、桶・樽という木製容器伝播と造形技術、意匠に関する歴史的研究である。既存の研究成果はないことから、本研究においては海外のフィールド調査を軸にして取り組んだ。平成26年度については中国の新疆ウイグル地区の調査を行った。平成27年度はパキスタン北部とタジキスタンの調査を行った。平成28年度については、イラン北部とタジキスタン北部、中国の内モンゴル自治区の調査を実施した。 上記の調査結果を、過去に実施したヨーロッパ、アジア、日本の調査結果と比較考察した結果、下記の内容が明らかになった。 ①ヨーロッパにみられる縦長のバター製造用桶・樽は、西アジアを経由して中国のチベット自治区、内モンゴル自治区にまで伝播している。漢民族にはバターを使用する文化がないので、バター製造用桶・樽は一切見られない。 ②ヨーロッパで発達した側板、底板、箍で構成されるバター製造用桶は、規則的なパーツを有する形態のタイプと、不規則的なパーツを有する形態のタイプに大別される。後者のタイプは、中国の新疆ウイグル自治区からチベット自治区で使用されている。 ③イラン北部のカスピ海に近い地方、タジキスタンの北部地方、中国新疆ウイグル自治区タジク族自治州、パキスタン北部の地域では、ヨーロッパの桶・樽とは構造がまったく異なるバター製造用桶・樽が存在する。丸太を二つに割って中を抉り、その後再び箍とパッキン的な作用をする布等を使用して一体化するものである。このタイプの桶・樽がヨーロッパの桶・樽の影響を受けて成立したかどうかについては、さらに研究を進めないと検証することは難しい。しかしながら、桶・樽の成立過程を検討する具体的な研究対象になることは間違いない。
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