研究課題/領域番号 |
26560012
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
尾本 章 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 教授 (00233619)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | マイクロホンアレイ / 音場再生システム / 超臨場感 |
研究実績の概要 |
音場再生システムの性能評価を一般化することで,合理的な性能向上のためのパラメータを明確化することを大きな目的としている。このための有効な道具として,平成26年度には,本研究における音情報入出力装置である「方向-時間情報収集センサー」を構築し,評価システムを構築する計画であった。当初いわゆるショットガンマイクを36本程度利用する計画であったが,配分された予算と配線などの実現性を再検討して,24本のシステムとして実現を試みた。それぞれのマイク単独の指向性などと合わせて,全体の指向性,方向別分解能を把握した上で利用する計画であり,これまでにシステム構築,基本的測定などを順調に行っている。特に24チャンネルの信号を光ケーブル1本で伝送できるシステムとしたため,非常に使い勝手の良いシステムが完成している。 再生システムとのマッチングを考慮する必要があるが,平成25年度科学研究費・基盤(B)「音場再生における工学的手法と芸術的手法の合理的融合に関する研究(課題番号:25282003)において構築した36チャンネル音場再生システムにおいての再生を基本にしている。あわせて,申請者が主たる共同研究者として参加しているCREST「音楽を用いた創造・交流活動を支援する聴空間共有システムの開発(研究代表者:伊勢史郎)」において開発した48チャンネル音場再生システム,音積木との併用も試みている。 システムの相性を検討するにあたって,別の場所の音情報や反射音などを方向別に再生するシステムを構築し,遠隔からの同時音場再生や残響音付加といったアプリケーションを試みている。いずれも参加者から非常にポジティブな評価を得ており,今後当初の目的達成のための測定に加えて,さらなる性能向上をと共に利用方法の拡大を試みる計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度中にシステムは完成し,各種性能検証を行っている段階である。特に基本的な性能は,マイクロホン単体での指向性,全体をまとめた際の分解能などを周波数ごとに丁寧に解析しており,性能の限界もあわせて把握することができている。 このように物理的な測定に加えて,このマイクアレイを用いた芸術的表現の可能性を探る試みもあわせて行っている。これは当初の研究計画では考慮していなかった事項であるが,楽音などいわゆる「良い音」を扱うデバイスに対しては非常に効果的な方法である。具体的に行った事項は以下の二つである。 1) ライブ演奏の遠隔配信と多チャンネル再生:100m程度離れた場所で行われているライブ演奏を本研究で開発したマイクアレイで収録し,これをリアルタイムに別の空間に伝送してマイクの数と同じ24チャンネルのスピーカで再生する試みである。参加者からは非常に臨場感の高い再生である旨の評価を得た。 2) ライブ演奏への方向別残響不可:比較的デッドなスタジオにおいて行う器楽演奏の音を別途マイクなどで収録し,これを響きの多い空間に放射する。今回は極端な例として残響室を用いた。この反射音を,開発したマイクアレイで収録することで,方向別の反射音を収録することができる。これを演奏場所に再伝送し,24方向から再生することで,元々デッドな状態であった音場に,響く音場の反射音情報を任意の振幅で付加することができる。これは観客のみならず,演奏者からも非常にポジティブな評価を得ることができた。 今後,収録-再生-再収録というループを構築して,その差分を評価する方法を確立していくが,その前段階としての性能評価は順調に推移している。これらの事項を勘案して,全体としては順調に推進できているものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り,構築したセンサーで収録した原音場の音と,なんらかの音場再生システムにおいて再生した音の差分について,丁寧な解析を行っていく予定である。無響室など極端に反射が無い音場では,システムの周波数特性などによって基本的な性能限界が把握できるものと考えられる。このような「キャリブレーション」方法の確立とともに,通常の教室や居室などの空間,ホールなど音響に特化された空間や屋外などでの環境騒音再生の評価手法などについて考察を行う予定である。 検討に際しては,原音場の音と再生音場の音の差異を調整しながら小さくすることになるが,リアルタイム性と操作の簡便性,一般性を重視したい。具体的には,Digital Audio Workstation (DAW)ならびにそのプラグインソフトにおいて操作可能なパラメータによるフレームワーク構築を目指したい。 同時に,被験者を用いた主観評価実験も効果的に取り入れる。これまでの検討で,音場再生システムの評価には幾つかの方向性が存在し,それぞれに適したコンテンツが存在することが明らかになっている。好まれるコンテンツ,高性能再生に適したコンテンツ,そのための操作手法など,複合的な要因の解析になるが,マイクアレイと再生システムの組み合わせを効果的に用いて,総合的な性能評価指針を取りまとめたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究推進上主要なデバイスであるマイクロホンアレイの構築にあたって,各種マイクロホンの性能比較などを行った。結果として選択したマイクロホンの単価が,想定よりは若干安価であったこと,またマイクホルダー製作にあたって,図面までを準備したため,製作費を抑えることができたためである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は多くの音収録,再生実験を行う予定にしている。そのための実験補助謝金,あるいは機材の運搬費用に充填する計画である。
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