高齢社会が進行するに従い,自宅で過ごす時間は今後ますます伸びてくることが予想される.そのためには,過ごしやすく安心できる住宅環境が求められる.近年見かけなくなった「縁側」は我が国特有の建築様式であり,従来より「対外的な交流の場」や「内と外の緩衝空間」または「あいまい空間」として過ごしやすい空間という印象が強調されてきた.しかし,縁側が人に与える具体的な効果について科学的なエビデンスは示されていない.そこで,本研究の目的は縁側の果たす役割を客観的データとして示すことにある.研究方法は,約一坪の広さの縁側を個人住宅に試行的に設置して,居住者(65歳以上の高齢者)に通常の生活を送ってもらった.その上で,縁側設置前後の心身の変化を測定した.対象者は,66歳女性,68歳女性,73歳男性の計3名である.測定したパラメータは,自律神経機能を把握するために心拍変動(Heart Rate Variability=HRV)を朝8時~夕方17時までの9時間メモリー心拍計を装着して測定した.また,主観的な気分評価のためにPOMS2短縮版(Profile of Mood States)を使用した.さらに,実際の生活状況の変化を把握するために,上記時間内の生活行為の聞き取りも行った.測定は,縁側設置前の1週間,縁側設置後約3ヵ月後および約6ヵ月後の各1週間の計3週間とした. 結果は,次の通りである. ①縁側設置後,交感神経機能の活動量が増加し,縁側設置前よりも生活全般が活発化する可能性が明らかとなった. ②同じく,縁側設置後にPOMS2のポジティブ因子(友好,活気)が上昇しており,縁側のコミュニケーション機能を支持する結果が確認された. ③縁側設置前後での副交感神経機能(癒し,休息等)と生活行為の活動性との関係は明らかでなかった.
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