研究課題/領域番号 |
26560038
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研究機関 | 神戸松蔭女子学院大学 |
研究代表者 |
花田 美和子 神戸松蔭女子学院大学, 人間科学部, 准教授 (70369411)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リユース / 使用感 / 着用感 / 品質 / リサイクル / 中古 / 衣類 |
研究実績の概要 |
平成26年度(初年度)は、中古衣料において重要視される品質項目の調査と、それらを数値化していくための予備実験をおこなった。 1.インターネットによる中古衣料調査として、通販サイトやオークション、スマートフォンのフリマアプリで販売されている子供服317点、婦人服175点について、出品者による衣類の状態についてのコメント文から情報を収集した。その結果、多かったコメントは、子供服では「毛羽立ち」 「使用感 (着用感)あり」であった。婦人服では、「使用感 (着用感)あり」 が半数を占め、次に多かったのは 「状態良好」であった。これらのことから、中古衣料の売買に際して、状態の良し悪しは価値を左右するものとして認識されているといえる。特に多かった「使用感(着用感)あり」は、衣類においてどのような物理的な状態をあらわしているのかが不明である。これを解明することで、衣類の使用年限を長くする方法や、質の高い中古衣料を流通させるために消費者とメーカーができることを具体的にすることが可能であると考える。 2.中古衣料について公開Webアンケートを実施した.実施時期は2014年11月から12月の1か月間とした。その結果、「使用感(着用感)とは何か」の問に対して 「色あせ」「のび」「毛羽立ち」という回答が得られ、あいまいで主観的な表現である「使用感(着用感)」が定量化できる可能性が示唆された。 3.「使用感(着用感)」の中で多くを占めた「色あせ」について綿100%のポロシャツ(白・黒)を試料として測色をおこなった。ポロシャツは着用期間が2年、1年、0年(新品)のものであった。これによって、明度と色相の経時変化、部位による色差を捉えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、リユース可能な衣類の品質レベルを定量化することである。平成26年度(初年度)の計画は以下のとおりであった。 1.調査項目の選定とアンケートの作成:アンケートの質問項目を選定するにあたり、インターネットのリユースショップやオークションサイトから、出品されている中古衣料の状態を表す言葉をピックアップし、それによって、中古衣料の取引の際チェックされる項目を整理する。 2.アンケートの実施:中古衣料として購入する際の選定基準について、風合い、外観、機能等に関する物理的項目を中心に調査する。 3.アンケートの集計・分析、その結果をふまえての使用済み衣類の物理的特性の測定(予備実験)をおこなう。 これらはすべて、ほぼ計画どおりに実施することができた。特にインターネット調査では、中古衣料の売買においては品質の良し悪しが重要視されることと、品質の良し悪しを表現する言葉として「使用感(着用感)」が多用されている実態を確認することができた。また、アンケート調査では「使用感(着用感)」=色褪せ、のび、毛羽立ちという回答を得ることができ、予備実験につなげることができた。次年度以降は、これらの物理的特性を数値化し、この数値と人の感覚との関連性の検討に入ることが可能となった。したがって、現時点ではおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度(2年目)の計画と推進方策は以下のとおりである。 1.測定試料の準備 : 平成26年度(初年度)のインターネット調査の結果から、入手しやすく流通量の多い子供服と婦人服を中心に収集する。「使用感(着用感)」のひとつである「色あせ」を測定することを考慮して、色は白と黒を中心とする。入手する方法については、市場で流通している商品を中心に計画していたが、個人所有のものは購買年月が特定できることも多く、経時的な劣化や状態変化が捉えやすい。したがって積極的に収集することにする。 2.物理的特性の測定 : 測定項目は、消費者がアンケートの結果「使用感(着用感)」として捉えた「色あせ」「のび」「毛羽立ち」を中心とし、これらの数値化を試みる。 1)「色あせ」:現有設備の色彩計で中古衣料の色を測定し、明度と色相から検討する。また、初年度の予備実験の結果から、衣類の部位によっても色の変化が異なっていたため、部位別の測定とする。これによって、古さ・新しさの判断材料となっている可能性のある「色ムラ」という状態をも捉えることができる。 2)「のび」:部分的な変形が外観変化として捉えられていると推測される。のびは元の状態からの寸法変化率として測定する。変形前の寸法は衣類のパターンから推測する。 3)毛羽立ち:布表面に露出した繊維端の増加が手触りと外観の変化をもたらし、消費者に「使用感(着用感)」として知覚されると考えられる。手触りの変化は、摩擦感テスターを用いて測定し、摩擦係数との関係を検討する。また、実態顕微鏡で布表面の質的変化を観察し、毛玉、スナッグ(ひきつれ)、摩擦による損傷等と「使用感(着用感)」との関連性を検討し、必要に応じて追加アンケートあるいは官能検査等を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は以下の3点である。 ①秋に学会発表をおこなう予定であったが、次年度の5月に変更したため、旅費、ポスター等作成費が未使用となった。②計画していたアンケート調査をwebによる公開アンケートとし、主に神戸松蔭女子学院大学の学生を対象としたものに変更したため、謝金が不要となった。③物品費として古着サンプルの購入を予定していたが、個人所有のものが多数集まり、本年度使用分は充足することができた。また、予定していた実体顕微鏡システム一式を当初の予定よりも安く購入することができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額の使用計画は以下のとおりである。 ①旅費は、次年度夏に開催される家政学会色彩・意匠学部会夏季セミナーへの旅費と、被服材料学部会夏季セミナーへの旅費と、繊維機械学会繊維リサイクル技術研究会への旅費に使用する。②webアンケートの追加アンケートを行う。今年度回答が集められなかった30代以上を対象にするため、その謝金として使用する。③物品費は次年度は物理特性の測定を行うため、古着サンプル購入と、測定に必要な消耗品の購入に充てる。
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