本研究は、食事性リン摂取による副甲状腺ホルモン初期分泌機構の解明を目的とした。 これまでに、10週齢の雄性Sprague-Dawleyラットを用い、麻酔下で胃内に中性リン酸水溶液(1.3 mmol) を負荷し、大腿静脈に留置したカテーテルより投与前後で経時的に採血を行った。その結果、血漿PTH、リンともに昨年度の研究成果と同様に投与後5分で有意な上昇を認めたが、血漿リンの上昇ピークよりも早期に、PTHの上昇ピークすなわち、PTH初期分泌を確認してきた。 本年度は、PTH初期分泌に及ぼす神経経路について検討を行ったところ、カプサイシンによる迷走神経求心路の遮断により抑制されることを見出した。また、副甲状腺を支配する神経の影響を検討するために、交感神経遮断および副交感神経遮断しPTH早期分泌を検討した。交感神経遮断群および副交感神経遮断群ともに、リン酸投与後5分で、0分値のベースラインと比較して血漿PTH濃度、血漿リン濃度ともに有意な上昇を認めたが遮断薬による影響は見られなかった。PTH初期分泌は腎臓尿細管細胞のリン酸再吸収を行うトランスポーターであるNaPi2aタンパク質発現量に影響していると考えられる。そこで、PTH初期分泌の腎臓への作用を検討した。その結果、リン酸投与により有意にNaPi2aタンパク質発現量が低下し、迷走神経求心路遮断によりNaPi2aタンパク質発現量の低下が消失したことから、PTH初期分泌は腎臓近位尿細管のNaPi2aタンパク質発現量に影響していると考えられた。 本研究を通して、PTH初期分泌機構が、腸管でリンを感知して迷走神経求心路を介して中枢神経へシグナル伝達することにより、中枢神経からの副甲状腺支配により早期にPTHを分泌を促し、PTHが腎臓でのリン酸排泄を促し生体内のリン代謝恒常性を維持する病態生理学的意義を持つ現象であることを明らかにした。
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